EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2010.01.29
「化学物質規制、問われる対応力」と題して、2010年1月15日付け日刊工業新聞にREACH規則とRoHS指令に関わる調達部材の調査・問合せ状況が「調査依頼殺到」と報じられています。この記事では、サプライチェーンを通しての情報伝達の重要性を示す一方で、化学メーカーからの情報開示を拒否されることも紹介しています。
サプライチェーンの川中企業は、川下企業の要求と川上企業の回答の間に立って、ことに中小企業は自らの調査能力に限界があることから、対応に苦慮しているとの声を多く聞いています。この苦慮している課題が「営業秘密」の解釈で、情報を要求する側と回答する側で認識が必ずしも一致していない、あるいは、「営業秘密」を理解していないことです。
古い資料(2006年)ですが、「製品含有化学物質情報伝達に係る基本的指針」(産業構造審議会化学・バイオ部会リスク管理小委員会 製品含有化学物質情報伝達ワーキンググループ)で、つぎのような実態が報告されています。
「川下企業は用途情報を、川上企業は部素材の一定の機能発現に必要なノウハウをともなっている含有化学物質情報を、それぞれ営業秘密として第三者への漏洩のおそれから相手企業に対し開示しない場合があり、結果的に情報伝達が円滑に進まない場合がある。
また、反対に、相手企業に対し使用しない情報の開示を過度に求める場合もある。その結果、営業秘密が漏洩してしまうことがある。
あきらかに"RoHS"への対応とわかる要求であるにも関わらず、閾値を桁違いに厳しいもので要求するケースもある。」
http://www.meti.go.jp/policy/chemistry/main/060627seihinganyu.pdf
「営業秘密」は企業秘密(trade secret)、営業秘密情報(CBI:Confidential Business Information)とも言われます。「営業秘密」は、不正競争防止法の第2条に「この法律において『営業秘密』とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう」と定義されています。
例えば、化審法が改正され年間生産量などを報告する義務がありますが、パブコメ意見で「製造輸入数量等については企業秘密にあたるため、保護の仕組みが必要。公開のルールを明示すべき」や「リスク評価にあたり、事業者の所有する情報の提出には協力するが、知財や企業秘密への配慮が必要」との意見が出ています。
化学物質のサプライチェーンを通しての情報伝達はMSDSがツールとなります。問合せの多い安全衛生法では、譲渡または提供時に文書で次項を伝達する義務があります。
(1)名称
(2)成分及びその含有量
(3)物理的及び化学的性質
(4)人体に及ぼす作用
(5)貯蔵又は取扱い上の注意
(6)流出その他の事故が発生した場合において講ずべき応急の措置
(7)前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項
多くの場合に「成分及びその含有量」の開示が営業秘密の開示になるとして開示を拒むことがあります。GHSの1.4.8項では、営業秘密は「作業者や消費者の健康と安全、または環境保護を危うくするべきではない」としています。さらに、「営業秘密情報がある場合は、ラベルまたは安全データシートでその事実を示すべきである」とし、「営業秘密情報の申請は化学品の名前と混合物中の濃度に制限するべきである」としています。
http://www.env.go.jp/chemi/ghs/kariyaku.html
MSDS規格JIS Z 7250では、「MSDS に含まれる情報は,機密情報ではない。組成及び成分に関する機密情報は,附属書A の項目3.を遵守する限り別の方法で提供してもよい」としています。
これらに従えば、MSDSの項目の中で「営業秘密」は、第3項の組成及び成分情報が提供できて、つぎのような表示になります。
3. 組成および成分情報
危険有害成分 |
「営業秘密」と書かないで、「非開示」と記載される場合もあります。
次回は海外の対応を紹介します。
(松浦 徹也)