EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2011.01.21
米国の環境省(EPA)が1990年に、有害化学物質をできる限り使用・排出しないように物質選択や反応方式を設計し、有用な化学製品をつくることを目標とした「Green Chemistry Programs」を提唱しました。これがグリーンケミストリー(Green Chemistry)の始まりであり、以後約20年間で徐々に具体化されていきました。
グリーンケミストリーの背景には、1990年に制定された環境汚染は汚染源で防ぎ、防ぎ切れない汚染は安全処分を求める「連邦汚染防止法(Pollution Prevention Act)」があります。
その後、1998年にオックスフォード大学のAnastas, P. T.、Warner, J. Cが、「Green Chemistry: Theory and Practice」を出版し、その中でグリーンケミストリーの概念を12原則(Twelve Principles of Green Chemistry)にまとめて発表しました。
原則ですから理念を示すもので、直接的に規制されるものではありませんが、規制の方向性は読み取れます。
2006年3月にカリフォルニア大学が特別報告書「カリフォルニア州のグリーン・ケミストリー:化学物質政策とイノベーションにおけるリーダーシップのための枠組み(Green Chemistry in California:A Framework for Leadership in Chemicals Policy and Innovation)(PDFファイル)」を発表しました。
この特別報告書では、TSCAなどの連邦法は、本質的に排出時規制であって、上市前のレビューが十分でなく、人の健康と環境を保護するのには不十分としています。EUでは、WEEE指令、RoHS指令やREACH規則で新しい化学物質政策を実施しているが、米国には政府のリーダーシップが欠けているとも指摘しています。
2008年12月16日に最終カリフォルニアグリーンケミストリ議案(California Green Chemistry Initiative Final Report)で6つの政策を発表しました。
この勧告を受けて順次法律ができています。
SB509(PDFファイル)
SB509は、勧告4の「オンライン有毒物質クリアリングハウスの設立を規定しています。
AB1879
AB1879は勧告5の 消費者向け製品に含まれる化学物質や化学成分を特定して「懸念化学物質」の優先順位付けを行うためのプロセスと「懸念化学物質」とそれの代替策を評価し、最も効果的に曝露を制限し懸念化学物質がもたらす危険を抑えることができるかを決定するプロセスを構築する規則を2011年1月1日までに作成することが義務付けられています。
消費者向け製品(Consumer Product)の定義は、SB509の§25251にあり、危険なドラッグ・装置、歯の修復材、治療や診断などに使われる装置、およびそれらの包装材のほか、食品、殺虫剤などが除外されています。
AB1879による規則案では、概念図によれば次の3段階で規制されます。
1990年頃から理念として検討がされてきたグリーンケミストリーが、このように具体的な規制となってきました。
多くの読者の皆様から、今後の化学物質規制の方向、規制物質は何かとのご質問をいただきます。グリーンケミストリー12原則や6政策勧告はカリフォルニアだけでなく、全米規制の流れであり、EUや日本でもその潮流はあります。
世界各国の法規制の方向性はアジェンダ21やグリーンケミストリーなどでみられますように同じですが、その国の国民性の違い、価値観の違い、宗教観の違いなどで、個別の規制内容は違っています。
例えば、グリーンケミストリーに類似した取組みとして、EUを中心としたOECDが提唱しているグリーンサスティナブルケミストリー(Green Sustainable Chemistry)があります。化学製品が生態系に与える影響を考慮し、グリーンケミストリーが対象としていないリサイクルによる省資源化を通じて持続成長可能な産業のあり方を含めた取り組みを提唱しています。
これを違うと見るか、同じと見るかによって、企業対応は異なってきます。グローバル展開している企業は、共通性を探し、対応の簡素化を図ることが肝要です。そのためには、各国の個別法規制の対応を考える前に、理念や原則などを理解し、大きな方向性を把握する必要があります。
(松浦 徹也)