EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2013.07.19
2013年10月10日に熊本で水銀条約が水俣条約の名称で関係国により採択され署名される見込みです。条約案(Draft Minamata Convention on Mercury)は2013年1月にジュネーブで開催された「第5回水銀条約政府間交渉委員会」で検討されています1)。条約は50カ国以上が批准してから90日後に発効します。
この時期に水俣条約がニュースになったのは、1月のジュネーブでの交渉過程の内部メモがインターネットで第三者が見られる状態だったとのニュースが原因と思われ、水銀に関連する問合せが増えています。問合せの多い成形品に関わる水俣条約の内容をまとめてみます。
水俣条約案は35条5附属書の構成で、条約名称は、前文で「水俣病の本質的な教訓、特に水銀汚染から生じる重大な健康と環境影響および将来水銀の適切な管理とそのような出来事の防止を確実にする必要性を認識し」で示されるように、水俣病が背景にあります。
条約の目的は第1条で、「水銀と水銀化合物の人為的排出と放出とから人の健康と環境を保護する」としています。
条約は先進国と開発途上国で共通だが差異のある責任(前文)を認めています。例えば、途上国で行なわれている人力による零細な金採鉱による水銀を用いて金との合金(アマルガム)をつくり、それを熱して水銀を蒸気にして飛ばし、金を得るという作業を認め(第7条)ています。
一方、先進国にはアマルガムを作る水銀の輸出を制限して、水銀を使用しない安全な代替手法を推進するために、条約第3条で水銀と水銀化合物の貿易制限をしています。
制限がされる水銀と水銀化合物の対象が同第3条に示されています。
水銀: 重量比95%以上の濃度の合金及び他の物質のとの混合物
水銀の定義(第2条)で、水銀元素(Hg(0価) CAS No. 7439-97-6)です。
水銀化合物:塩化水銀(I)別名カロメル、酸化水銀(II)、硫酸水銀(II)、硝酸水銀(II)、辰砂鉱石及び硫化水銀
水銀化合物の定義は(第2条)では、「化学反応で異なった化合物に分離することができる水銀元素と他の化学元素の1つ以上の他の化学的元素の同一分子からなる物質を意味する」となっています。
第3条の貿易制限は特定されています。
水銀のマテリアルフローを見ますと、日本は水銀のリサイクルが進み、使用量より回収量が多く、余剰分を輸出しています。輸出が制限されますと水銀保管という新たな課題が出てきます。
なお、EUでは「金属水銀並びに水銀化合物および混合物の輸出禁止並びに金属水銀の安全な貯蔵に関する2008年10月22日の欧州議会及び理事会規則(EC)No 1102/2008」で輸出規制がされています。水銀化合物の種類は、辰砂、塩化水銀(I)、酸化水銀(II)および合金で若干異なっています。
水銀添加製品(Mercury-added products)の義務は第4条に示されています。水銀添加製品の定義は第2条で「意図的に加えられた水銀又は水銀化合物を含有する製品または製品構成物」とされています。第4条の対象製品は附属書AのパートIに収載されている製品で、廃止期日も示されています。
水銀添加製品 | 製品の製造、輸入・輸出が許されなくなる期日(廃止期日) | 筆者追記 |
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電池 除外:水銀含有が2%未満の酸化亜鉛銀ボタン電池 水銀含有が2%未満の空気亜鉛ボタン電池 |
2020年 | |
スイッチとリレー 除外:モニタリングと制御計器用の高精度コンデンサおよび損失測定ブリッジと高周波無線周波スイッチ並びにリレーで、ブリッジ、スイッチまたはリレー当り20mgまでの水銀含有のもの |
2020年 | |
30ワット以下の一般照明用コンパクト蛍光ランプ(CFLS)でランプバーナー当り水銀封入量が5mgを超えるもの | 2020年 | RoHS指令では2013年以降2.5mgの制限 |
一般照明用直管蛍光ランプ(LFLs): (a)60W未満の3波長ランプで、ランプ当り水銀封入量が5mgを超えるもの (b)40W以下のハロゲン蛍光ランプでランプ当り水銀封入量が10mgを超えるもの |
2020年 | |
一般照明用高圧水銀ランプ(HPMV) | 2020年 | RoHS指令では2015年4月15日以降除外なし。 メタルハライドランプや高圧ナトリウムランプなどは対象外 |
電子表示用の冷陰極蛍光ランプ(CCFL)および外部電極蛍光ランプ(EEFL)中の水銀 (a)短管長(500 mm 以下)でランプ当り水銀封入量が3.5 mgを超えるもの (b)中管長(500 mmを超えて1500mm以下)でランプ当り水銀封入量が5 mgを超えるもの (c)長管長(1500mmを超える)でランプ当り水銀封入量が13mgを超えるもの |
2020年 | RoHS指令と同一規制値 |
化粧品(水銀含有1ppmを超える)、皮膚美白石鹸とクリーム (保存剤として水銀を使用し、効果的で安全な代替保存剤が利用できない場合の目じりの化粧品は含めない) 注) 少量の水銀汚染を含む化粧品、石けんまたはクリームを対象とすることを意図していない。 |
2020年 | |
農薬、殺生物薬および局所消毒薬 | 2020年 | |
水銀を使用しない適切な代替技術が利用可能でなく、大型装置に設置される非電子測定機器または高精度測定のために用いられるもの以外で、下記の非電子式測定機器 (a)気圧計 (b)湿度計 (c)圧力計 (d)温度計 (e)血圧計 |
2020年 |
附属書AパートIに収載された水銀添加製品は2020年が廃止日ですが、第6条(要求による締約国に利用可能な免除)で、廃止日の2020年が次のように免除されます。
(1)条約締約国および地域経済統合機関が附属書AまたはBの収載ないようについて1つまたは複数ついて免除を最長5年間登録できます。
(2)上記の免除につて、条約締約国の要求により、条約締約国会議で最長5年間の延長が決定できます。
(1)と(2)により最長で10年の延長となり、2030年廃止もあり得ることになります。
附属書AパートIIでは、歯科用アマルガムについては、「品質の高い水銀を使用しない材料の研究開発の促進」などの措置を条約締約国に求めています。
なお、第5条(水銀または水銀化合物が使用される製造工程)で、附属書Bに規定する「塩素アルカリ製造:2025年」「水銀または水銀化合物が触媒として使用されているアセトアルデヒド製造:2018年」や「塩ビモノマー製造の措置」などが定められています。
水俣条約に規制内容については、消費者団体などから規制を厳しくすべきなどの意見もあり、10月10日の採択に向けての調整が気になるところです。
(松浦 徹也)
1)http://www.unep.org/hazardoussubstances/Portals/9/Mercury/Documents/
INC5/5_7_REPORT_ADVANCE.pdf