EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2013.08.02
デンマークでは、同国の環境保護庁(以下、EPA)が特定フタル酸エステルの製品含有を禁止する法案を2012年3月9日に欧州委員会に提出したものの、提案が否定される見込みであることを受け、2012年12月7日に室内用途製品への特定フタル酸エステルの含有を制限する政令を公布し、2013年12月1日から0.1%以上の含有製品輸入、販売を禁止するとしていました。
ところが、予想外に該当する製品が多く、企業の対応が困難であることに鑑み、同政令の施行を2年延期し、2015年12月1日とすることを公表しています。以上の経緯は、2013年7月12日付けコラムで取り上げてあります。
一方、デンマークEPAは、7月1日に、EUで使用されるフタル酸エステル類を特定・管理するための戦略1)「フタレート戦略(Phthalate Strategy)」を公表しています。
今回は、上記の「フタレート戦略」の「緒言」および「要約と結論」の内容に基づき、その概要を以下に紹介します。
I.緒言
フタレートは、同じ一般構造を持った化学物質のグループで幾つかのフタレートは懸念物質であることが証明されています。フタレートの管理は、いくつかのフタレートが同等の高懸念のその他の化学品により単に代替されないように物質の全グループに関する包括的な知識に基づいて行わなければなりません。
この戦略は、デンマークとEUで使用されているフタレート全般を調査し、好ましくないフタレートに対する人と環境を保護するために必要な措置を記述しています。
この国家フタレート戦略は、医療装置のフタレートの問題点に関する戦略に貢献しているデンマーク健康大臣の協力を得てデンマーク環境大臣によって準備されています。
戦略はさらに、その領域において人および環境の十分な保護を確実にするために長期、短期に推進しなければならない活動を特定しています。
II.要約と結論
1.戦略の目標と目的
この戦略の目標は、水平的アプローチに基づいて、フタレートの管理を確実にするためにフタレートグループ全体を調査することです。この戦略の目的は、現在、デンマークとEUで使用されているフタレートを特定し管理することで、使用されているフタレートの評価を実施するため十分な知識を獲得することおよび制限の必要があるかどうかを特定することを目標としています。
フタレートは同じ一般的な化学物質構造(1,2-benzenedicarboxylic acid)を持つ物質のファミリーで、多くのフタレートは、内分泌攪乱物質として証明されているかもしくは攪乱要因が疑われています。問題が重大なのは、多数のフタレートが同じ行動モードを持ち、人および環境が異なるフタレートに暴露される時に一般的にリスクが増加するという事実にあります。そのため、他のフタレートおよび他の物質への影響の結果、組合せ影響の可能性の考慮が必要であるということです。
2.現状(status)および進行中の活動
EUおよびデンマークの法令はフタレートを規制してきました。そしてデンマークにおいては、制限またはその他の方法でフタレート使用に影響しています。
3.進行中のデンマークの活動
デンマークEPAの好ましくない物質リスト(List of undesirable substances:LOUS)に含まれている物質調査の一部として特定フタレートの調査実施が進行中です。その目標は、用途、使用量および物質の環境および健康影響について活用できる知識を評価することにあります。
しかし、2012年11月以来、LOUSの5つのフタレート中4つはデンマークの国家禁止対象となっていまいので、さらなる調査の必要はありません。大量に使用のために選択されているフタレートは、EUの潜在的内分泌攪乱物質のリストに含まれているかもしくはEU調和化分類を持っています。
4.新しい活動
REACH登録では、年間1t以上の量の製造または輸入されたすべての物質は登録する必要があります。今までのところ23種のフタレートが登録済みで、さらに3種のフタレートが数年のうちに登録されるものと期待されています。
登録される26種のフタレート中内分泌攪乱影響に関して最も有害と考えられるフタレートに対し、特に注意が向けられます。これは再生毒性に分類されているかもしくは内分泌攪乱影響を持っていると疑われるフタレートを含んでいます。この文脈において登録されたフタレートの環境影響についてスクリーニングもまた実行されます。
5.内分泌攪乱影響のためのフタレートのスクリーニング
内分泌攪乱物質の一般的なEU基準は、現在開発中で、その基準は2013年末までに活用できると期待されています。2013年にデンマークEPAは、既に再生毒性として分類されているフタレートを除き、登録されているフタレートの内分泌攪乱影響について活用できる情報のスクリーニングを始める見込みです。したがい、登録もしくは予備登録済みの6種のフタレートは既に再生毒性に分類されていますので、残りの20種のフタレートについてスクリーニングが実行されます。
6.REACH下での物質評価
物質が人の健康または環境にリスクを呈すると信ずる理由があれば、REACHの下で物質評価を開始することが可能で、その場合当該物質評価は個々の加盟国により主導されます。
EUに登録されているフタレート中7つは既に物質評価のために選択されています。2014年-2015年にデンマークは5つの物質評価に責任を持つことになっています。
必要であれば、物質評価のために更にフタレートを指定することも可能です。
7.調和化された分類
内分泌攪乱性および/または再生毒性であるものの調和化された分類を持たないフタレートは、分類のための基準に適合するかどうかを決定するために評価(assess)が必要です。
この点について、産業側が物質を一定で満足できるレベルに自己分類しているかどうかを調査し、そうでなければ調和化された分類が準備されるべきか否かを評価(evaluate)されます。
例えば最近の研究では、DINPは高用量(high doses)において内分泌攪乱影響を有することを示しています。2013年にデンマークは、内分泌攪乱影響の証拠が調和化された分類またはその他の措置に対する基礎を提供するかどうかを評価(assess)します。
8.候補物質リストへの物質の指定
高懸念の性質を持ち、その使用が最終的に廃止されるべき化学物質は、REACH認可候補物質リストに含むことを要求できます。認可リストに含まれた物質は、特定用途が認められた後に当該用途でのみ使用することができます。
デンマークEPAは候補リストに収載するための要求に適合するフタレートのアセスメントを実施します。
9.制限
もし、アセスメントの結果が特定物質の使用が人の健康もしくは環境へのリスクを呈するという結論であれば、物質の製造、上市または使用について制限が導入される。EUにおけると同様に、デンマークにおいてもいくつかのフタレートに対して制限が導入されています。この場合、行動の同じモードに関して、いくつかのフタレートへの同時暴露に関連する可能性のある組合せ影響が考慮されるべきです。
デンマーク健康大臣はフタレートフリーの医療装置の使用のための可能性と障壁に関してデンマークの該当するプレイヤーおよび他のEU諸国およびEU委員会と知識の共有を促進します。
10.代替のための障壁(barrier)の破壊
現在、多数の代替品が市場に出ていますが、従来と違った障壁がそれらの使用を、妨害または制限するかも知れません。輸入者および流通業者が最も問題であるフタレートを含まない製品を購入できるかどうかに関するガイダンスもまた開発されねばなりません。
11.グリーンな公的購買
デンマークEPAは、ボランタリーベースで製品およびサービスに対する公的購買のフタレートをどこで、どのように削減できるか、そしてもし廃止の可能性の分析を開始することにより、フタレートの削減および廃止の可能性を調査したいと思っています。
当該分析は、将来のフタレートフリーの製品の公的購買の仕事の方向を示すと思われます。
12.ステークホルダーとの緊密な協調と対話
進行中のステークホルダーとの対話は、すべての活動に対し重要です。ステークホルダーとの正規会合は、ステータスについての報告および情報と意見交換のために開催されます。デンマーク健康・医療局が国内の関連当局(Danish Patients , the Danish Consumer Council , the Secretariat for the Organisation of Danish Medical Society等)の参加を得て設立している医療装置ワーキンググループは緊密な協調の例です。
13.要約およびステータス
2015年の中にデンマークEPAは、フタレートに関する作業についてステータスレポートを準備します。その時までに、LOUS物質の戦略準備に関する作業は完了している見込みです。そして、デンマークの多数のフタレート物質の評価は懸念の理由があるか、もしくは新しい研究が要求されるかどうかの評価を終え、次の進んだ段階に移行します。このステータスレポートでは、特定されるフタレートの可能な組合せ影響が考慮されます。
1)http://www2.mst.dk/Udgiv/publications/2013/06/978-87-93026-22-3.pdf
(瀧山 森雄)