EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2015.03.13
「ここが知りたいREACH規則」のコラムやQ&Aで何度か取り上げられています、成形品中のSVHCに関する届出や情報伝達義務の濃度閾値である0.1wt%の判定時に分母として用いる「成形品重量」の解釈について、欧州司法裁判所法務官の意見が2月に公表されました。
本稿では、これまでの経緯から欧州司法裁判所法務官の意見について紹介します。
REACH規則における成形品中のSVHC濃度に関わる義務としては、第7条(2)と第33条によって、「成形品中の0.1wt%」を超えるSVHCについて、届出や情報提供の義務が課されています。
第7条(2)では次の条件に該当し、該当する用途が登録されていない場合に、ECHAへの届出義務を課しています。
また、第33条では、「SVHCが成形品中に、0.1wt%を超える濃度で存在する」場合に川下ユーザーや消費者に対する情報提供義務を課しています。
これらの義務で閾値として設定されているSVHCの濃度0.1wt%を判定するためには、「SVHCの重量」を「成形品の重量」で除することでSVHC濃度を算出することになります。
複数の成形品で構成される複合成形品に関する「SVHCの重量」の計算については、ECHAの成形品ガイダンス明記されているとおり、複合成形品の構成部品単位で重量を算出することが求められており、この点については、EUで統一した解釈となっています。
一方、「成形品の重量」については、EU域内で解釈が分かれていました。
SVHC濃度の判定にあたり、分母として利用する「成形品の重量」については、次の2つの解釈があります。
(1)成形品を複合成形品「全体」とする解釈
欧州委員会や多くの加盟国が支持しており、ECHAの成形品ガイダンスでもこの解釈が採用されています。
(2)成形品を複合成形品の「構成部品」とする解釈
フランスやドイツ、ベルギー、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンの6カ国が支持しており、フランスは政令を公布し、6カ国が共同でECHAとは異なる成形品ガイダンスを策定しています。
REACH規則はその名のとおり、規則(Regulation)であるため、本来は加盟国が統一した対応を図ることが求められますが、上述のとおり、加盟国によって解釈が異なる状況でした。
このような状況から、2014年にフランスの工業団体がフランス行政裁判所に対し、分母を「構成部品」単位とするフランス政令に関する訴えを起こしました。この訴えを受けて、フランス行政裁判所は、EU法の解釈に関する問題であることから、欧州司法裁判所に予備判決(Preliminary Ruling)を求めていました。
なお、予備判決はEU全域にわたりEU法の統一的な適用を担保するものであり、予備判決は中間的な決定であり、あくまでも最終的な判決は予備判決を求めた加盟国裁判所が行うことにありますが、一般的には予備判決に沿った判決が下されることになります。また、予備判決で示されたEU法の解釈は、予備判決を求めた加盟国裁判所だけでなく、加盟国すべての裁判所に適用される仕組みとなっています。
その予備判決に向けた最初のステップとして、完全に公平かつ独立した立場から、理由を含めた法的見解を法務官意見として、裁判所に提出されます。この法務官意見が2015年2月に欧州司法裁判所法務官の意見が発表されました。
法務官はREACH規則の「第3条:定義」や「第7条(2):成形品中に含まれる物質の届出)」、「第33条:成形品に含まれる物質に関する情報伝達の義務」などの条文を改めて精査した結果、
などの見解を述べ、これらの見解を踏まえて、届出〔第7条(2)〕及び情報伝達(第33条)の判定時に分母として用いる「成形品」について、次のような結論を示しました。
<REACH規則第7条(2):届出>
REACH規則第7条(2)の他の条件(生産者または輸入者あたりで合計して年間1トンを超える量)を満たしている場合は以下のよう。
(1)複合成形品の製造者
他の製造者によって製造または組み立てられ、独自の形状、表面またはデザインを残した部品で構成される複合成形品の製造者は、複合成形品全体の0.1wt%超の濃度でSVHCを含有している場合にECHAへの届出が求められる。
(2)複合成形品の輸入者
独自の形状、表面またはデザインを残した部品で構成される複合成形品の輸入者は、構成部品ごとに0.1wt%超の濃度でSVHCを含有している場合にECHAへの届出が求められる。
<REACH規則第33条:情報伝達>
独自の形状、表面またはデザインを残した部品で構成される複合成形品のサプライヤは、構成部品ごとに0.1wt%超の濃度でSVHCを含有し、関連情報が入手可能な場合において、第33条による情報伝達が求められる。
これまでもSVHCの濃度計算にあたっては、構成部品単位での管理が求められていたため、各企業は、構成部品ごとのSVHC含有に関する情報を有しているものと想定されます。
しかしながら、今回の法務官の意見が正式に判決に反映荒れた場合、輸入者からこれまでの複合成形品単位から構成部品構成部品単位での情報提供が求められることが想定されますので、対応に向けて準備しておくことが必要であると考えます。
今回公表された法務官の意見には拘束力はないものの、一般的には欧州司法裁判所の予備判決や加盟国裁判所の判決に踏襲される場合が多いのが実態です。そのため、今後の欧州司法裁判所の予備判決やフランス行政裁判所の判決、これらを踏まえたECHAの対応等が注目されるところです。そのため、適宜情報が公表されれば、本コラム等で取り上げる予定です。
(井上 晋一)