EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2015.11.20
2015年2月13日付けコラムでは、2015年に予定される主要各国のGHS関連法規制の施行や適用開始を取りあげましたが、その後、国連のGHS第6版が発行されたり、コラムで概要を紹介していなかった国でもGHSに関連する動きがありました。
そこで今回は、GHS第6版の概要や年初のコラム以降の主要各国のGHS関連法規制の動きを整理します。
国連GHSは2年に1回改訂されてきましたが、2015年9月に最新の第6版が公表されました。第6版では、物理化学的危険性に関する危険有害性クラスの17番目の項目として、「鈍感化爆発物」が新設され、4つの区分が設定されました。
鈍感化爆発物とは、大爆発や急速な燃焼を起こさないよう、爆発特性を抑制するために鈍感化された爆発物および混合物の液体または固体を言います。鈍感化爆発物の危険有害性クラスが新設されたことにより、これまで爆発物に分類されていたものの一部が、鈍感化爆発物として区別されることになります。
また、物理化学的危険性に関する危険有害性クラスの「引火性ガス」の区分として新たに「自然発火性ガス」が設けられました。
加えて、爆発物や特定標的臓器毒性、吸引性呼吸器有害性、水生環境有害性などの判断基準の明確化や、ラベルの貼付が困難な小さい容器包装に対するラベル表記例などの追加・修正が図られています。
次に各国における新たな動きを紹介します。
カナダでは、2015年2月に労働安全衛生分野へのGHS導入を定めた有害製品規則(HPR)を官報公示しました。本規則は米国の危険有害性周知基準(HCS)と同様に段階的に化学品の製造者・輸入者、流通者および化学品を扱う職場を有する雇用者に対して適用されていきます。
まずは、化学品の製造者・輸入者に対して2017年6月までにHPRへの対応が求められることになり、2018年12月1日から全面施行される予定となっています。
アルゼンチンでは、2015年4月に労働安全衛生分野へのGHS第5版の導入を定めた決議(801/2015)を発表し、猶予期間を180日とし、2015年10月からの適用が予定されていました。
これにより、アルゼンチンでもGHSが法的に導入されることになりましたが、産業界からの要請などもあり、10月に適用時期の延期が発表されました。その結果、GHSへの対応時期は、物質が2016年4月15日から、混合物が2017年1月1日からに延期されました。
メキシコでは、2015年10月に労働安全衛生分野へのGHS導入を定めた強制規格(NOM-018-STPS-2015)を官報公示しました。メキシコではこれまでも自主的な規格として、GHSの第5版に準拠したラベルやSDSの規格がありましたが、本規格によって、GHSが法的に導入されることになりました。
本規格では移行期間を3年間と設定しているため、2018年10月からはGHSに対応したラベルやSDSが必須となります。
その他、年初にコラムで取り上げた国々でも次のような動きがありました。
フィリピンでは、2014年3月に国連GHS第3版に準拠した「職場におけるGHS実施命令」が公布され、2015年3月から、職場で利用する工業用化学物質のGHS分類、ラベル表示、安全性データシート(SDS)の保存などが義務付けられました。
上記は労働安全衛生分野に限定された内容でしたが、さらに5月に環境天然資源省(DENR)から、行政命令「有害化学物質のSDSおよび表示要件への化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)の実施手続きおよび規則(No.2015-09)」が公表されました。これによって、これまで既存の法規制によって求められていたラベルやSDSにGHSが段階的に導入されることになりました。
まずは、フィリピンの化学物質規制において、「化学品管理令(CCO)や優先化学物質リスト(PCL)の対象となっている単一物質および化合物」は2016年から適用が開始される予定です。
米国では、2012年3月に危険有害性周知基準(HCS)が改訂され、2015年6月までに化学品の製造者・輸入者、流通者および化学品を扱う職場を有する雇用者は、一部の義務(流通者に対するHCS対応ラベル未貼付の流通禁止など)を除き、HCSに対応することが求められていました。しかしながら、産業界からの適用時期の延期要請を受け、2015年2月に救済措置を示した執行ガイダンスが発表されました。
執行ガイダンスでは、サプライチェーンの川上に位置する化学品メーカーが、HCSに準拠したラベルやSDSを提供しなければ、混合物メーカーや輸入者がHCSに対応することができないため、混合物メーカーや輸入者がHCS対応にあたり、「合理的なデューデリジェンス」と「誠実な努力」を行ったことを証明できる場合には、2015年6月1日以降も猶予を与えることになりました。
日本においても労働安全衛生法の改正により、GHSに基づくラベル対象となる化学品が拡大されるなど、2015年の動きだけでも、ラベル・SDSのGHS対応は各国で導入・強化されていることがうかがえます。
近い将来には、化学品の使用者は、どの国においても化学品を取り扱う際には、GHSが定めるピクトグラムなどを目にすることになり、最低限の危険有害性情報を確認することができるようになるものと思います。
しかしながら、化学品メーカーとしては、GHSが世界共通の枠組みであると言っても、対象とする化学品の範囲や各国による分類結果の採用要否、国連GHSの版数、ビルディング・ブロック、言語対応など、各国の法規制に応じて個別対応が必要なケースも想定されます。そのため、共通的な原理・原則を理解した上で、各国法規制対応の実務上の差異を効果的かつ効率的に対応する仕組みが必要であると考えます。
(井上 晋一)