EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2016.09.16
REACH規則では、認可対象候補物質リスト(Candidate List)に収載されたSVHCを0.1%以上含有する成形品について情報提供(第33条)が、さらに同物質について、年間取扱量が1トン以上で用途が未登録場合にはECHAへの届出(第7条)が必要となります。そのため、多くの日本企業は直接または間接的に成形品に含有するSVHCの管理を実施しています。
本コラムでは、成形品中のSVHCに関する最近のECHAの動向として、第16次SVHC提案および成形品中の物質に関するガイダンス(以下、成形品ガイダンス)の改訂案をご紹介します。
ECHAは9月6日に、第16次SVHCとして次の6物質を提案し、10月21日までの意見募集を開始1)しました。これまで同様に、意見募集によって寄せられた意見を踏まえた検討を経て、12月に第16次SVHCとして認可対象候補物質リスト(Candidate List)への収載が決定することになります。
6物質の中には、6月3日付の本コラム2)でも取り上げ、感熱紙に対する制限要否について欧州委員会の最終決定待ちとなっているビスフェノールAも含まれています。
物質名(英名) | 物質名(和名) | CAS番号 | 主な用途 | 区分 | 提案国 |
---|---|---|---|---|---|
4,4'-isopropylidenediphenol (bisphenol A) | 4,4'-プロパン-2,2-ジイルジフェノール(ビスフェノールA) | 80-05-7 | PVCの酸化防止剤、エポキシ樹脂硬化剤、感熱紙 | 生殖毒性 | フランス |
4-Heptylphenol, branched and linear [substances with a linear and/or branched alkyl chain with a carbon number of 7 covalently bound predominantly in position 4 to phenol, covering also UVCB- and well-defined substances which include any of the individual isomers or a combination thereof] | 4-ヘプチルフェノール、分岐および直鎖 | - | 潤滑油の添加剤 | 環境への重大な影響可能性を有する同等の懸念 | オーストリア |
4-tert-butylphenol | 4-ターシャリ-ブチルフェノール | 98-54-4 | 表面処理製品、ポリマー、接着材、シーラント | 環境への重大な影響可能性を有する同等の懸念 | ドイツ |
Benzene-1,2,4-tricarboxylic acid 1,2-anhydride (trimellitic anhydride) | ベンゼン-1,2,4-トリカルボン酸1,2-無水物 | 552-30-7 | エステルやポリマーの製造、研究使用 | 健康への重大な影響可能性を有する同等の懸念 | オランダ |
Nonadecafluorodecanoic acid (PFDA) and its sodium and ammonium salts | ナデカフルオロデカン酸、ノナデカフルオロデカン酸アンモニウム、ノナデカフルオロデカン酸ナトリウム | 3108-42-7 335-76-2 3830-45-3 |
可塑剤、潤滑剤、界面活性剤、湿潤剤、防腐剤 | 生殖毒性、PBT | スウェーデン |
p-(1,1-dimethylpropyl)phenol | 4-tert-ペンチルフェノール | 80-46-6 | ポリマー中や他物質の合成 | 環境への重大な影響可能性を有する同等の懸念 | ドイツ |
2015年9月に公表された、複合成形品に対する欧州司法裁判所の判決によってSVHCの含有濃度を算定する際に用いる分母の解釈が示されたことによって、ECHAは成形品ガイダンスを2段階で改訂する意向であることを示していました。
第1段階として、ECHAは、判決内容と齟齬がある記載や事例を削除した第3版を2015年12月に公表し、新たな例示の追加や全体的な見直しを2016年中に実施することを発表していました。ECHAは8月5日に第2段階として同ガイダンス全体を見直した第4版案3)を公表し、改訂手続きを開始しました。
第4版案では、本文の全体的な構成は大きく変更されていませんが、本文や各付録においても、第3版で削除された事例に代わる新たな事例が追加されています。
中でも事例を挙げて解釈を示している付録では、付録3、4、5が新たに設けられたことにより、付録の数が7種から次の10種に増加しています。
付録1:容器又は担体材料中の物質/混合物の境界ケース
付録2:天然又は合成材料から最終形品に加工するまでの過程における境界設定の例
付録3:成形品中のCandidate List収載物質の濃度決定方法の例
付録4:異なる成形品に含有するCandidate List収載物質の合計量決定方法の例
付録5:Candidate List収載物質 に対する要件の適用に関する実践的ヒント
付録6:第7条および第33条に基づく要求が適用されるかどうかを確認する実例
付録7:成形品中の物質に関する情報源
付録8:成形品中の物質のサンプリングおよび分析方法
付録9:成形品中の物質の用途を制限するその他法律
付録10:関連するREACH規則の部分
なお、新たに追加された付録にはそれぞれ次のような事例が示されています。
付録3:成形品中のCandidate List収載物質の濃度決定方法の例
例1 プラスチック製の椅子(物質または混合物で製造された成形品)
例2 絶縁電線(物質または混合物を既存の成形品と組み合わせてできた成形品)
例3 プリントTシャツ(物質または混合物を成形品に組み込み、一体となった成形品)
例4 粘着テープ(物質または混合物を成形品に積み重ね、一体となった成形品)
例5 布張りソファ(2つ以上の成形品を機械的に組み合わせた成形品)
例6 航空機の胴体パネル(物質または混合物を使用し、2つ以上の成形品を組み合わせた成形品)
付録4:異なる成形品に含有するCandidate List収載物質の合計量決定方法の例
例1 異なる成形品(フライパン、グリルパン等)の合計量
例2 最終製品中(電源タップ)に組み込まれた複数の成形品の合計量
付録5:Candidate List収載物質に対する要件の適用に関する実践的ヒント
例1 アウトドアジャケット
例2 プリント基板
同ガイダンスは2017年初頃には最終化される予定であり、その後、ECHAの執行情報交換フォーラムによって、成形品中のSVHCに関する順守状況の調査が2017年に実施される予定となっています。このような動きの中、輸入製品中のSVHCに対するEU域内輸入者の関心がより一層高まるものと想定されます。
(井上 晋一)