EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2017.10.13
欧州化学品庁(ECHA)は、9月18日掲題「REACH認可の社会経済影響」に関する報告書1)を公表しています。以下にその概要を整理いたします。
以下では、報告書の要約(Summary)及び結論(Conclusion)に焦点を絞り概要をご紹介します。
認可のプロセスは完全に実行されているので、これまで受領されている認可申請を棚卸し評価するためには好機会である。
報告書の調査目的は以下の3つである。
REACH規則の認可は、リスクが適切にコントロールされる場合、企業に特定のSVHCの継続使用を認め人の健康と環境に対する高いレベルの保護を確実にすることを目的としている。換言すれば、もしSVHC物質の使用による社会経済的な便益が、その使用により生ずるリスクを上回り経済的、技術的に実現可能な代替品、または代替技術がない場合、欧州委員会は当該物質の継続使用に認可を与える。
本調査は、2013年から2016年の4年間にECHAに対して申請された約20のSVHCの認可申請書の最初のバッチでの認可物質の継続使用に関し、人の健康と環境へのリスクに関する情報をまとめている。
可能であれば、人の健康への影響は認可のコストと便益の比較を容易にするため貨幣価値に換算(monetize)されている。この場合、後者は非認可の機会コストに一致する。換言すれば、もし認可が認められないならば社会はコストを負担しなければならない。
本調査はECHAのRACおよびSEAC委員会の評価に対し申請者が記述しているように認可の期待効果を便益とリスクの見地から比較している。
2016年末までに118以上のSVHCの用途が集計され、申請者による認可要求物質の継続使用に関連するEUにおける人の健康に対するリスクの金額換算値は年間254百万ユーロとなっており、ECHA科学委員会によるそれは年間281百万ユーロである。同時に申請者は、申請されている用途を中止した場合、年間25.3億ユーロの機会コストを必然的に伴うと見積もっている。ECHAの科学委員会はそれらの機会コストは少なくとも年間4.2億ユーロであると再評価している。申請書においては継続使用あたりの総計の便益コストレシオ(benefit‐cost ratio)は100:1で、RACおよびSEACの再評価に基づく継続使用あたりの総計の便益コストレシオは15:1であった。
受領した申請書の評価においてECHAの科学委員会は欧州委員会に対し、平均的なレビュー期間は申請者が要求している11.1年ではなく8.4年に短縮すべきことを推奨している。
更に、RACは118用途のうち85の用途(72%)のサンプル評価において、欧州委員会に対し、追加的リスクマネジメント措置(additional risk management measures)、操業条件(operating condition)、または監視要求(monitoring requirement)を認可の一部として課すべきと推奨している。これらの条件の影響は未知であるが、六価クロムを用いた硬質クロムめっきに対して実施された見積りの例証は達成されたリスク低減が重要であることを示唆している。
一般的にSVHCを取扱っている企業が成功した代替品もしくは更に良いリスクマネジメントにより人の健康と環境に対する化学品リスク低減に関しREACH認可の権利が持っている影響を定量化することは困難である。概念の困難さはもしREACHが適切でなければ(not in place)EU横断的な対応リスクを知ることが不可能なことである。更に、REACHの実施に対する観察された便益に寄与することはベースラインシナリオに関してなされるべき多様な仮定を要求することである。更に、認可要求のためにどの程度の代替が生じているかを知ることは難しい。何故ならばECHAは認可を必要としない企業から情報を受取ることはないからである。これらの限界を認識して現在の調査は比較すべきベースラインはREACH認可発効以前の状況を仮定している。
産業規模(industry‐wide)のばく露測定に基づき、認可要求のため部分的に防止されているがん症例の統計的な見積りを算出することは可能である。たとえば、硬質クロムめっきに対する症例では、リスクマネジメント措置が適正であれば、EU全域でばく露が仮定される作業者および認可の一部として実施される追加的なリスクマネジメント措置の防止効果次第で統計上年間のがん死亡者数を年間2.7から11にできるかも知れないことを示唆している。これらのがんの症例を金額換算すると年間およそ10-55百万ユーロの社会的便益を意味する。それはREACHに起因するかも知れない。これらの影響は不確実であるが明らかに重要である。全体的にEUの作業者および一般人に対する化学品リスクは著しく減少してきたし今後も減少するであろう。
REACH規則の下における初期の100の認可申請書を概観すると認可は多様なレベルで社会経済的影響を持ってきたと結論できる。認可に対する要求は、現状で代替が不可能である場合SVHCの継続使用を欧州産業セクターに認める一方で作業者と一般人に対する化学物質リスクを低減させてきた。
認可申請書の処理システムは申請者と規制当局双方に必然的にコストを伴ってきた。他方、認可要求とSVHC継続使用の論争はより安全な代替に向けた代替品を求め、それが代替品の製造者のイノベーションと成長を促進してきた。
本報告書は、SVHCの継続使用の認可の社会的便益およびそれらの使用により生ずる残されたリスクに焦点を当てている。この申請書のメタ分析(meta‐analysis)と対応する意見対し、以下の3つの所見が際立っている。
結果的に、現在の調査は標準化された方法で主要情報を報告することの重要性を強調している。認可のための申請書から便益と残留リスクおよびその他の関連する情報を追跡することはECHA科委員会がかれらの意見を効果的に発展するために欠かすことができない。同様に、意見においてそのような情報を明確に記録することは欧州委員会が加盟国と共に認可の承認または非承認の決定を行うことを援助する。このような理由で、ECHAは標準化され容易に比較できる方法で申請書および意見が重要情報を報告することを確実にすることを意図している。このことは将来の認可システムに対する申請書の影響の理解増進を可能とする。
(瀧山 森雄)
1)https://echa.europa.eu/-/report-echa-s-scrutiny-has-a-profound-impact-on-authorisation-decisions