EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2017.12.22
早いもので、2017年も残りわずかとなりました。REACH規則は2006年の制定からすでに10年以上が経過し、物質や混合物中の物質に関する第3次登録期限も2018年5月末に迫り、REACH規則の主要義務である物質及び混合物中の物質に関する「登録」が1つの節目を迎えようとしています。
一方、REACH規則では成形品に関連する各種義務も課されています。今回は成形品の義務に関する最近のトピックスをご紹介します。
欧州化学物質庁(ECHA)の「執行情報交換フォーラム(以下、フォーラム)」による「REACH EN FORCE(REF)-4」では附属書XVIIの次の14種の制限項目をテーマとした調査が2016年に実施されました。
附属書XIV No | 物質名 | 附属書XIV No | 物質名 |
---|---|---|---|
5 | ベンゼン | 47 | 六価クロム化合物 |
6 | アスベスト繊維類 | 48 | トルエン |
23 | カドミウムおよびその化合物 | 49 | トリクロロベンゼン |
27 | ニッケルおよびその化合物 | 50 | 多環芳香族炭化水素(PAH) |
32 | クロロホルム | 51 | フタル酸エステル類(DEHP、DBP、BBP) |
43 | アゾ色素およびアゾ染料 | 52 | フタル酸エステル類(DINP、DIDP、DNOP) |
45 | ジフェニルエーテルオクタブロモ誘導体 C12H2Br8O | 63 | 鉛およびその化合物 |
REF-4の調査報告書は年内に公表される予定ですが、11月に開催されたフォーラムの本会議にて結果概要1)が公表されました。
執行調査は次表のような5,625製品を対象に主に分析試験によって調査が実施されました。調査対象製品全体の82%が成形品であり、また輸入品が半数以上を占めています。
製品の形態 | 製品の原産国 |
---|---|
物質:17製品 | EU:1,616製品 |
混合物:1,009製品 | EU域外:2,885製品 |
成形品:4,599製品 | 不明:1,124製品 |
調査の結果、全体の18%の製品で制限条件の違反が発見されており、中でも違反割合が高い(トップ5)製品は次の通りでした。違反割合が高い「玩具中のフタル酸エステル類」や「皮革製品中の六価クロム」、「宝飾品中のカドミウム」等はRAPEXでも違反事例として多く公表されていますが、今回の執行調査でも違反割合が高い結果が示されています。
また、違反製品は原産国不明の割合が最も多く、次いで中国製、EU・EEA製という結果が示されました。
制限対象製品および物質 | 違反割合 | |
---|---|---|
1 | 玩具中のフタル酸エステル類(DEHP、DBP、BBP) | 玩具464製品のうち19.7%が違反 |
2 | ろう付け充填剤中のカドミウム | 混合物86製品のうち14.1%が違反 |
3 | 成形品中のアスベスト | 成形品213製品のうち13.6%が違反 |
4 | 皮革製品中の六価クロム | 皮革製品467製品のうち13.3%が違反 |
5 | 宝飾品中のカドミウム | 宝飾品1,134製品のうち12.1%が違反 |
この結果を受けて、フォーラムは違反割合が18%と非常に高く、違反製品の原産国が不明な場合が多いことなどを問題点として挙げています。
2017年6月に改訂された「成形品中の物質に関するガイダンス(第4版)2)」は、読者の方もご一読された方も多いのではないでしょうか?
2015年の本コラムで、フォーラムは2017年に「欧州司法裁判所の先決裁定に基づいた成形品中のCLSに関する届出および情報伝達」をテーマにパイロットプロジェクトを実施することが決められていました。
ECHAは11月20日に、同プロジェクトが10月からスタートしたことを発表3)しました。CLSに関する執行調査は今回が初めてであり、成形品の供給者の順守状況を確認し、CLSに関する義務の認知を高めるとともに、結果に応じて更なる措置の必要性や今後の執行調査方法を確立することを目的としています。
このパイロットプロジェクトでは、電気製品や建材、インテリア製品など、消費者がばく露する可能性があるCLSを含有する成形品の製造者や輸入者、流通者を対象に実施されており、中でも次のような物質を重点的に調査することが示されています。
このパイロットプロジェクトは、2018年6月まで実施され、2018年11月末までに報告書が公表される見込みとなっています。EU域内におけるCLSの義務の順守状況を示す初めての資料となるため、その内容が注目されるところです。
成形品中のCLSについては、ドイツ連邦環境庁(UBA)が9月にEUのLIFEプログラムからの資金を受け、成形品中のCLS含有情報データベースを整備し、消費者がスマートフォン等によってCLS含有情報を確認することができる仕組みを構築する「AskREACH」プロジェクトを開始することが発表4)されました。また、本プロジェクトではサプライチェーン間での情報伝達を促進する供給者向けのITツールも検討される予定となっています。
すでに消費者が供給者に対してCLS情報を問い合わせるスマートフォンアプリは、Scan4Chem5)、ToxFox6)やTjekKemien7)など複数提供されていますが、今回のプロジェクトはより問い合わせ機能だけでなく、データベースの構築やサプライチェーンでの情報伝達ツール等、より踏み込んだ取り組みとなっています。
なお、本プロジェクトは2017年9月から2022年8月末までの5年間で実施され、2018年3月には、本プロジェクトの進捗等を掲載したウェブサイトが公開される予定です。
(井上 晋一)
1)REF-4結果概要
2)成形品中の物質に関するガイダンス(第4版)
3)ECHA ニュース
4)UBA ニュース
5)Scan4Chem
6)ToxFox
7)TjekKemien