EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2018.06.29
REACH規則は2007年6月に発効し、1年後の2008年6月から運用が開始されました。早いもので2018年5月31日に10年が経過しました。
REACH規則では、予備登録または遅延予備登録を実施した段階的導入物質(phase-in-substance)について、トン数帯に応じて登録の猶予期限が設けられていましたが、製造・輸入量が1~100tの少量取扱い物質を対象とした第3次登録期限である2018年5月31日をついに迎えました。これで、EU域内で1t以上製造・輸入する企業による物質の登録が原則完了したことになります。
今回のコラムでは、2018年5月31日までの登録状況や、関連する今後の動向などについて紹介します。
ECHAは第3次登録期限の翌日である6月1日に、2008年6月1日の登録開始から、2018年5月31日の第3次登録期限までの10年間で、13,620社から21,551物質を対象とした88,319件の登録一式文書がECHAに提出されたと発表1)、2)しました。
なお、提出された登録一式文書のうち、登録手続きが完了しているのが、82,874件であり、残りの5,445物質は登録手続きが進行中です。
2018年2月に最終更新された予備登録物質数3)は145,297物質でした。単純に比較すると、登録された物質はそのうちの約15%であったことになります。
10年間で登録一式文書を提出した企業を規模別に見ると、全体の82%が大企業であり、12%が中小企業(SME)で、残りの5%が未定義という結果でした。大半を大企業が占めていますが、中小企業からも1万件以上の登録一式文書が提出されています。
このうち、2018年5月31日が期限であった1~100tの登録一式文書を見ると、全体で33,363件であり、全体の38%にあたります。提出件数で見れば、大企業が大部分を占めますが、大企業は100t以上の提出件数の割合が大きく、一方、中小企業では、1~100tの提出件数が概ね50%程度を占めています。
企業規模 | 10年間で提出された 登録一式文書数 |
1~100tで提出された 登録一式文書数 |
---|---|---|
大企業 | 72,559 | 27,794 |
中企業 | 6,264 | 3,059 |
小企業 | 3,524 | 1,878 |
マイクロ企業 | 1,232 | 632 |
未定義 | 4,740 | ― |
合計 | 88,319 | 33,363 |
次にトン数帯および中間体登録、NONS(REACH規則以前の指令67/548/EECで新規化学物質として届けられた物質)別の登録状況を見ると、最も多いのが、「1,000t以上」であり、次いで「1~10t」、「中間体」と続いています。
トン数帯 | 提出された登録一式文書数 |
---|---|
1,000t以上 | 20,214 |
100~1,000t | 12,793 |
10~100t | 12,929 |
1~10t | 17,054 |
中間体 | 15,371 |
NONS | 9,958 |
合計 | 88,319 |
また、唯一の代理人制度を利用したEU域外企業の割合を見ると、米国が最も多く、中国、日本、インドの順でした。
ECHAによると、第3次登録期限の提出ピークは登録期限最終日である5月31日でした。登録件数は当初予定していたよりも少なく、円滑に対応できたとし、10年間の登録の成果として、世界最大規模の化学物質に関する公的データベースが構築できたと言っています。また、このデータベースは、EUはもとよりEU以外の当局にとっても有用な情報であると述べています。
登録に関する10年間の猶予期間が終了したわけですが、ECHAは今後、提出された登録一式文書について次のような対応を図る予定です。
2018年8月31日までに登録一式文書の完全性チェックを行い、登録番号の発行や登録一式文書の不備に関する通知を対象企業に実施します。また、営業機密申請の評価を行い、営業機密情報に該当しない情報については2018年末までにECHAのウェブサイトで公表する予定です。また、2022年6月1日までに一部の登録一式文書の詳細評価や試験提案の評価を行うとともに、費用の減免措置がある中小企業に該当しているかの検証が進められます。
また、ECHAと多くの加盟国が参加し、1年間の調査期間を設けて統一のテーマで実施する「REACH EN FORCE(REF)」において、2019年に実施予定の「REF-7」では「登録および中間体」がテーマとして取りあげられており、第3次登録期限に提出された登録などについて執行調査が実施される予定となっています。
登録猶予期限終了後の2018年6月1日以降は登録していなければ、EU域内企業は、1t以上製造・輸入することは法的にはできません。ECHAは、登録有効期限に間に合わなかった企業に対して、製造・輸入を実施または再開するためには登録番号を受領することが必要となるため、遅滞なく登録手続きを進めるよう求めています。すでに予備登録を実施していれば、ECHAからの通知を受領するまでは予備登録番号は有効であるため、直接登録一式文書の提出を行い、一方、予備登録を実施していなければ、ECHAへの照会(Inquiry)を行うよう求めています。
また、今後も当然、新たに1t以上取扱う企業は登録が必要ですし、新たな情報を得た場合や、ECHAからの要請がある場合には登録一式文書を更新しなければなりません。
そのため、欧州委員会やECHA、産業界などで構成される責任者連絡会議(DCG)は5月31日に、段階的導入物質の共同登録を行う物質別の物質情報交換フォーラム(SIEF)のような共同登録者間の協力体制を今後も維持するよう勧告4)しました。
SIEFは同一の段階的導入物質の登録にあたり、重複試験の回避や分類・表示の合意形成を図ることを目的に、REACH規則第29条で定められており、条文上は第3次登録期限までの運営が義務付けられていました。しかしながら、今後の登録関連義務を遂行するためには、共同登録者間で協力して実施することが必要であることから、新たな契約に基づきSIEFのような共同登録者間での協力体制を維持していくことを求めています。
このように10年間の登録期間が終了し、REACH規則の大きなマイルストーンの1つが完了したことになります。もちろん、登録に関連する義務は今後も継続されるわけですが、今後はよりいっそうECHAに蓄積された登録情報などに基づき、物質のリスク評価や制限や認可などの規制化に重点が移っていくものと想定されます。EUはもとより世界的に影響を及ぼしているREACH規則の動向は今後も注視しておくことが必要です。
(井上 晋一)