EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2010.03.19
EU REACH規則の動向が見えてきたこともあり、最近はアメリカのTSCA(Toxic Substances Control Act:有害物質規制法)の改正動向に関心が高まっています。TSCAは1976年施行で35年近く経過し、幾度かの修正や化学物質管理政策の見直しがされています。
現行のTSCAの構造と主要義務を整理してみます。
TSCAは連邦法典のTitle 15 Commerce and TradeのCHAPTER 53 TOXIC SUBSTANCES CONTROLに収載されています。CHAPTER 53は4章構成になっています。
有害物質規制(CONTROL OF TOXIC SUBSTANCES)
アスベストの危険緊急措置(ASBESTOS HAZARD EMERGENCY RESPONSE)
屋内ラドンの削減(INDOOR RADON ABATEMENT)
鉛の暴露削減(LEAD EXPOSURE REDUCTION)
HEALTHY HIGH-PERFORMANCE SCHOOLS
第1章のCONTROL OF TOXIC SUBSTANCESの条項は、§ 2601. Findings, policy, and intent(確認事項、政策及び意図)から§ 2629. Annual report(年次報告)の構成になっています。一方、EPAでの表示は第1条(削除されてなし)、第2条が§ 2601と第3条が§ 2602と内容は同じですが、表記が異なっています。この文書では、EPA方式で条項番号を記述します。
連邦法典はCornell Law Schoolのホームページから入手できます。
TSCA施行の詳細手順は連邦規則集(CFR)Title40 Part700以降にあります。
TSCAでは米国内で製造(含む輸入)または加工された化学物質は、EPA によりTSCAインベントリーに収録されます。TSCAインベントリー収載化学物質(約83,000物質登録)が既存化学物質で、未収載物質が新規化学物質になります。
TSCAの規制はつぎの流れになります。
商業目的で新規化学物質を製造(含む輸入)する場合は、製造、輸入の90日前までにEPAに製造前届出をする(輸入の場合は代理人による)。
PMNは、年間1企業10t以下で製造(含む輸入)される化学物質、環境放出およびヒト暴露が低い物質、一定要件を満たすポリマー等については事前の免除申請によりPMNが免除になります。
リスク評価はPMNによりEPAが実施し、リスク評価結果も踏まえて規制を行います。ただ、TSCAでは届出の際には新たな試験の実施を求めておらず、届出者が有しているデータのみを提出すればよいとされています。
PMNによりEPAがリスク評価を行いますが、対象の化学物質のリスクが明確に評価できないものの、健康や環境にリスクをもたらす恐れや、放出・暴露量が多い恐れ(例:労働者1000名以上)のある場合に提案指令(Proposed Order)が発せられ、協議してリスク評価に十分なデータがそろうまでの製造等を制限する同意指令が発せられます。
http://www.epa.gov/opptintr/newchems/pubs/cnosnurs.htm
特定の用途が人や環境に悪影響を及ぼすと判断される場合にPMNに記載された届出以外の用途での使用に係る届出義務、事業所ごとの取扱量制限、排水基準設定、MSDS作成やラベリング、使用者への注意義務などの規制がされます。
同意指令は申請者に対して発せられますが、公平性の観点から当該化学物質を取扱う全事業者に対して同意指令と同等の制限を規制するのが重要新規利用規則です。
詳細手順は以下の§ 720にあります。
化学物質または混合物の製造、輸入、加工、流通、廃棄またはそのような活動のあらゆる組合せが人の健康または環境を損なう不当なリスクをもたらすまたはもたらすであろうと結論するための正当な根拠があると認める場合には規制がされます。
EPAの長官はその化学物質または混合物に負担が最も少ない要件を用いて、「製造、加工、職業的流通を禁止する」「製造、加工、職業的流通されるかもしれない物質または混合物の量を制限する」などのリスクに対する適切な保護に必要な措置を適用します。
年間25,000ポンド(11t)以上の製造(輸入)物質について、5年ごとに数量、用途に加えて化学物質、混合物の環境および健康影響に関する既存データ等の定期報告義務があります。これら情報でインベントリは更新されます。
TSCAの解説は筆者等の著作の「図解 REACH規則と企業対応」のTSCAの解説をご参照ください。
TSCAの規制はつぎのようなEPAにとって制約的な内容もあります。
技術革新を妨げず、不必要な経済的障害を生じないような方法で行使されるべき
EPA長官は本法を正当かつ慎重に運用するものとし、かつ、長官は本法に基づき実施または実施提案のいかなる措置も環境的、経済的および社会影響を考慮する。
試験規則あるいは、PMN またはSNUR に関連した試験データまたはその他の情報により、「化学物質または混合物が人体に対しガン、遺伝子突然変異、または先天性異常などの重大あるいは広範な被害をもたらす著しいリスクを呈するか、将来呈するであろうと結論付ける合理的な根拠があること」を示すものをEPA が入手した場合には、EPA はその情報の入手後180 日以内にリスクを予防または軽減する措置を開始するか、またはそのようなリスクは不合理であるとする所見を発表しなければならない。
「リスクが分かっている物質しかリスク評価ができない?!」というような揶揄も聞かれます。
担当 松浦徹也