EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2010.03.26
2010年3月8日に、欧州化学品庁(ECHA)から、認可対象物質のCandidate List(SVHC)とする8物質の提案に対して4月22日を締切りに意見募集を行う発表がありました1)。
以下の表の8種の物質です。
物質名 | EC# | CAS# | 提案のSVHC特性 | 潜在的用途 | |
---|---|---|---|---|---|
#1 | トリクロロエチレン | 201-167-4 | 79-01-6 | 発がん性cat.2 | ・金属部品の洗浄剤 ・接着剤の溶剤 ・塩素化・フッ素化有機物質製造の中間体 |
#2 | ホウ酸 | 233-139-2/ 234-343-4 |
10043-35-3/ 11113-50-1 |
生殖毒性cat.2 | ・多方面の応用での使用、例、殺生物剤と防腐剤、パーソナルケア製品、食品添加物、ガラス、セラミック、ゴム、化学肥料、難燃剤、塗料、工業用流体、ブレーキ液、はんだ製品、フィルム現像剤 |
#3 | 四ホウ酸二ナトリウム、無水物 | 215-540-4 | 1330-43-4 12179-04-3 1303-96-4 |
生殖毒性cat.2 | ・多方面の応用での使用、例、ガラスとガラス繊維、セラミック、洗剤と洗浄剤、パーソナルケア製品、工業用流体、冶金、接着剤、難燃剤、殺生物剤、化学肥料 |
#4 | 四ホウ酸二ナトリウム、水和物 | 235-541-3 | 12267-73-1 | 生殖毒性cat.2 | ・多方面の応用での使用、例、ガラスとガラス繊維、セラミック、洗剤と洗浄剤、パーソナルケア製品、工業用流体、冶金、接着剤、難燃剤、殺生物剤、化学肥料 |
#5 | クロム酸ナトリウム | 231-889-5 | 7775-11-3 | 発がん性cat.2 変異原性cat.2 生殖毒性cat.2 |
・実験室(分析試薬) ・他のクロム化合物の製造 |
#6 | クロム酸カリウム | 232-140-5 | 7789-00-6 | 発がん性cat.2 変異原性cat.2 |
・金属類の処理とコーティング ・試薬と化学薬品の製造 ・繊維の製造 ・セラミック着色剤 ・顔料/インクの製造 ・研究所(分析試薬) ・花火 |
#7 | 二クロム酸アンモニウム (重クロム酸アンモニウム) |
232-143-1 | 7789-09-5 | 発がん性cat.2 変異原性cat.2 生殖毒性cat.2 |
・酸化剤 ・実験室(分析試薬) ・皮のなめし ・繊維の製造 ・感光性スクリーンの製造(陰極線管) ・金属処理 |
#8 | 二クロム酸カリウム (重クロム酸カリウム) |
231-906-6 | 7778-50-9 | 発がん性cat.2 変異原性cat.2 生殖毒性cat.2 |
・クロム金属製造 ・金属類の処理とコーティング ・試薬と化学薬品の製造 ・実験室(分析試薬) ・実験室ガラス器具の洗浄 ・皮のなめし ・繊維の製造 ・フォトリソグラフィー ・木材処理 ・冷却システムの防錆剤 |
#3、#4は四ホウ酸ナトリウムの無水物と水和物としてリストされていますが、#3にリストされている、CAS# 12179-04-3、1303-96-4は、それぞれ、四ホウ酸ナトリウムの五水和物、十水和物(一般には「硼砂」と呼ばれます)です。#4のEC#235-541-3は水和数が特定されていません。本来ですと、五水和物も十水和物も#4の範疇に入るものです。今回の意見募集では四ホウ酸ナトリウムが無水物と水和物として別々に提案されていますが、REACH規則では塩類の無水物と水和物は同じ物質となりますので、一種類に統合されることになります。似た例は、既にCandidate Listに収載されているニクロム酸ナトリウム(別名:重クロム酸ナトリウム)があります。
今回提案されていないホウ酸系の化合物には、五ホウ酸ナトリウムや八ホウ酸ナトリウム等がありますが、これらのホウ酸系化合物は今後追加されることも考えられます。
#2のホウ酸は、国内で消毒やゴキブリ駆除剤として使用されています。EUではホウ酸、四ホウ酸ナトリウム無水物や八ホウ酸ナトリウム四水和物等の殺生物剤としての販売は2009年10月25日までに段階的に禁止されることになっていました。
今回提案された(#5)から(#8)の四種類のクロム酸化合物と既にCandidate Listに収載されているクロム酸化合物をまとめますと、以下の表のようになります。
物質名 | 化学式 | |
---|---|---|
(a) | クロム酸ナトリウム | Na2CrO4 |
(b) | クロム酸カリウム | K2CrO4 |
(c) | 二クロム酸ナトリウム(無水物・水和物) (別名:重クロム酸ナトリウム) |
Na2Cr2O7 |
(d) | 二クロム酸カリウム (別名:重クロム酸カリウム) |
K2Cr2O7 |
(e) | 二クロム酸アンモニウム (別名:重クロム酸アンモニウム) |
(NH4)2Cr2O7 |
(f) | クロム酸鉛 | PbCrO4 |
(g) | ピグメントレッド104 | PbCrO4・PbSO4・PbMoO4 |
(h) | ピグメントイエロー34 | PbCrO4・PbSO4 |
(a)から(e)までは水溶性の六価クロム化合物で、強い酸化力のある化合物です。同系列の化合物としては、クロム酸アンモニュウムが追加されることも考えられます。(f)から(h)までは水に溶けない六価クロム化合物で、多くは顔料として使用されています。塗料中の顔料としての炭酸鉛や硫酸鉛の使用は附属書XVIIに収載され、禁止されていますことを考えると、クロム酸鉛類は塗料中の顔料としての使用は制限されることもあるのではないかと考えられます。今後の動向には注意が必要と思います。
最終的にはSVHCは1500物質になるといわれています。ホウ酸化合物、クロム酸化合物類、あるいは、既にSVHCとして特定されているアントラセン類やフタル酸エステル等の例から考えますと、ある物質がSVHCとして特定されますと、その同属物質もSVHCとして、特定されることが予測されます。したがって、これまでに何らかの懸念される物質を使っていれば、その同属物質も含めて、情報管理の準備をしておくのがよいと考えます。
1) http://echa.europa.eu/doc/press/pr_10_03_svhc_consultation_20100308.pdf
(林 譲)