EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2012.08.31
新しいSVHC提案の動きがありましたので、前回に続きその概要を紹介します。
前回のコラムでは、2012年8月20日時点のECHAの「Registry of Intention」の内容をまとめて紹介しましたが、筆者の手違いにより、表2の2012年8月6日時点で附属書XVが提出済みの物質のうち以下の2物質がリストから漏れていました。
物質名 | CAS番号 | 提案者 | 附属書XV提出日 | 提案理由 |
---|---|---|---|---|
ノニルフェノール 〔炭素数9の直鎖および分岐のアルキル の全ての異性体の単独物、および、混合物(UVCB)〕 |
- | Germany | 2012/8/6 | EQC |
ビス(ペンタブロモフェニル)エーテル(decaBDE) | 1163-19-5 | 英国 | 2012/8/6 | PBT |
附属書XVが提出された物質は、前回13物質と紹介しましたが、上記2物質を加えて15物質となります。
また、表1の附属書XVが2012年8月21日に提出される物質として、20日以降に以下の物質が追加されていました。
物質名 | CAS番号 | 提案者 | 提案通知日 | 提案書提出予定日 | 提案理由 |
---|---|---|---|---|---|
N,N-ジメチルフォルムアミド;DMF | 68-12-2 | Sweden | 2012/6/11 | 2012/8/21 | CMR |
これらの物質がすべてcandidate listsに収載されますと、前回のコラムでは今年末までにSVHCは135物質が特定されると計画と紹介しましたが、これは138物質になります。
今回のコラムでは、deca-BDEについて英国から提案された附属書XVの文書の概要と工業界から出されているコメントの内容を紹介します。
属書XVの概要は以下の通りです。
ビフェニールエーテルには10個の水素分子があります。この10個の水素のうち、臭素に置き換わるのは1個から10個まで複数があり、それらは総称してPBDEと呼ばれます。今回の提案のdeca-BDEは、10個の水素全てが臭素に置き換わっている物質で、以下のように表わされます。
上述しました提案書の要約の中での、deca-BDEの変化(分解)物のPBT/vPvB特性を有する物質としては、ビフェニールエーテルの水素が8個、あるいは5個の臭素に置き換わったocta-BDE、あるいは、penta-BDE等が挙げられています。deca-BDEからの変化を見ますと、2個、あるいは、5個の臭素が水素に置き換わった、すなわち分解したものです。
octa-BDEはREACH規則の附属書XVIIに収載されており、制限物質となっています。penta-BDEも、REACH規則の附属書XVIIに収載されていましたが、委員会規則(EU)No 757/2010(いわゆるPOPs禁止規則)により、混合物や成形品に10ppm以上の含有が禁止され、それに伴い2011年にREACH規則の附属書XVIIから削除されています。
欧州難燃剤協会(European Flame Retardants Association;EFRA)からは、この提案書の結論に同意できない、deca-BDEについては、環境や健康のリスクは示されていないことを信じ続けるとコメントが出されています1)。理由としては以下を挙げています。
EFRAでは、上述の立場で附属書XVの提案文書の内容が不正確であることを明確にするために、今後の積極的にコンサル活動に参加し、意見を述べるとしています。
附属書XVの提案書によりますと、deca-BDE はEU域内では1999年以降生産されていません。しかし、2010年には約1万トン程度輸入されていたようで、登録がされています。
付属書XIIIでは、SVHCの特定に、物質の分解生成物も考慮に入れなければならないことになっていますが、上述しましたEFRAの指摘のようにこの判断は大変難しいことでしょうが、多くの場合にこの判断については慎重な対応が必要になりそうです。
なお、RoHS指令では臭素化されたビフェニールの臭素数に関係なくPBDEと表現されて、均質材料あたり1,000ppm以上含有する電気電子機器の上市が禁止されています。このうち、指令が施行された初期にdeca-BDEが除外項目となっていましたが、その後市販されているdeca-BDEには、今回分解して生成するといわれているocta-BDEやpenta-BDE等が不純物として含有されていることから、この除外が取り消されています。
これらの状況ですので、EUでの今後の動向を注視していきたいと思います。
1)
http://www.cefic-efra.com/index.php?option=com_content&view=article&id=5752&catid=34&lang=en
http://www.cefic-efra.com/images/stories/Position_Paper/efra_statement_annex%20xv_dossier_2012-08-07.pdf
(林 譲)