EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2016.01.22
2015年9月の欧州司法裁判所の先決裁定を受けて、ECHAは、「成形品中の物質の与件に関するガイダンス」の見直しを進めていましたが、その第1段階の改訂版として、2015年12月に同ガイダンスの第3版が公表されました。
今回の改訂は、欧州司法裁判所の先決裁定と不整合な例示が単純に削除され、ごく一部の文言が修正されたのみであり、取り急ぎ先決裁定との整合を図った暫定的な内容となっています。先決裁定と整合した例示の追加などの全面的な見直しは2016年中に実施されることとなっています。
今回の先決裁定では「成形品中のSVHC濃度判定時の分母」について、ECHAのガイダンス文書の解釈とは異なる結論が下されました。このようにREACH規則の条文自体は変更ないものの、運用上必要な解釈等が示されたガイダンス文書が変更されると企業の順守活動に影響を及ぼすことがあります。
そこで今回は改めてECHAが公表している各種のガイダンス文書を紹介します。
ECHAは各種のテーマに応じたガイダンス文書を公表し、REACH規則の運用状況にあわせて適宜改訂を行っています。ガイダンス文書自体に法的拘束力はないのですが、REACH規則の条文だけでは不明な事項の解釈や、具体的な例示等が記載されていることから、REACH規則を理解し、対応する上で有用な資料です。
REACH規則に関するガイダンス文書は、ECHAのウェブサイトで確認することができ、現時点では表1のとおりです。
テーマについて多くのガイダンス文書が作成されてしますが、この中でも多くの企業が関わるテーマについては、ガイダンス文書をより読みやすくした要約版(Nutshell)も提供されています。
要約版が提供されているテーマとしては、「登録」そのもの、登録時に必要となる「物質の特定や命名」「化学物質安全性評価」「データ共有」や、化学品の流通時に求められる「SDS」や化学品を購入する「川下ユーザー」の留意点、「成形品」の対応などがあります。
要約版やガイダンス文書は、それぞれのテーマに絞って内容が整理され、具体的な事例などが掲載されていますので、REACH規則の理解を深めるのに有用です。
なお、その他には附属書XIVへの収載手続きやSVHCや制限提案時に作成する附属書Vに基づく提案書類など、ECHAや加盟国当局などが中心に行う手続きを解説したものも多くあります。
なお、企業が物質登録時に提出した登録一式文書や物質の評価に関する2種のガイダンスは、それらの情報をECHA内の別サイトに情報掲載したことからガイダンス文書自体は廃止されています。
タイトル(版数) | 公表日 | 要約版の有無 |
---|---|---|
成形品中の物質の要件(第3.0版) | 2015年12月 | あり |
情報要件及び化学物質安全性評価 | ※ | あり |
SDSの編集(第3.1版) | 2015年11月 | あり |
研究開発指向プロセス・製品(PPORD)および科学研究開発(SR&D)(第2.0版) | 2014年11月 | あり |
川下ユーザー(第2.1版) | 2014年10月 | あり |
SVHC特定のための附属書XV文書の作成(第2.0版) | 2014年2月 | ― |
REACHとCLPに基づく物質の特定および命名(第1.3版) | 2014年2月 | あり |
附属書V(第1.1版) | 2012年11月 | ― |
登録(第2.0版) | 2012年5月 | あり |
モノマー及びポリマー(第2.0版) | 2012年4月 | ― |
データ共有(第2.0版) | 2012年4月 | あり |
認可申請準備(第1.0版) | 2011年1月 | ― |
社会経済分析(認可)(第1.0版) | 2011年1月 | ― |
中間体(第2.0版) | 2010年12月 | ― |
化学物質のリスクおよび安全使用の情報伝達(第1.0版) | 2010年12月 | ― |
廃棄および回収された物質(第2.0版) | 2010年5月 | ― |
制限のための附属書XV文書の作成(第1.0版) | 2007年6月 | ― |
附属書XIVへの物質収載(第1.0版) | 2014年2月、8月 | ― |
社会経済分析(制限)(第1.0版) | 2008年5月 | ― |
評価における優先順位の設定 | 2014年1月廃止 | ― |
登録文書および物質の評価 | 2014年1月廃止 | ― |
※「情報要件及び化学物質安全性評価」のガイダンスはA~Fまでの6種の基本ガイダンスと各基本ガイダンスのより詳細な内容を示したR.2~R.20までの19種の「参照ガイダンス」のパートで構成されており、それぞれのパートごとに改訂が行われている。
ガイダンス文書は、REACH規則の運用状況などを踏まえ、所定の手続きを経て策定・改訂されることとなっており、案段階で内容が公表され、内容を確認することも可能です。
多くのガイダンス文書があるため、常に何らかのガイダンス文書について改訂の作業が進められている状況です。現時点では「情報要件及び化学物質安全性評価」を構成する複数のパートで改訂手続きが進められています1)。
なお、ガイダンス文書の改訂内容は、軽微な修正のみの場合から、全面的な見直しまでさまざまです。
SVHCや制限物質の追加等の場合にはその動向によって読者の皆様の業務に影響を及ぼすことになるため、動向を把握することも重要です。一方、ガイダンス文書の改訂についてはすぐに読者の皆様の業務に影響を及ぼすわけではありませんので、常に動向を把握する必要があるものではありません。
常に最新動向を確認する必要はないものと考えますが、REACH規則の条文だけでは不明な点や複数の条文や附属書にまたがって記載されている内容をテーマに合わせて集約し、例示等を用いて解説しているものです。そのため、新たにREACH規則を理解する、改めてREACH規則の内容を確認する等の機会にまずは要約版から、必要に応じてガイダンス文書を確認するといった形で活用されてはいかがでしょうか?
(井上 晋一)
1)http://echa.europa.eu/support/guidance-on-reach-and-clp-implementation/consultation-procedure