EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2017.03.03
2018年5月31日の予備登録物質の登録期限が迫ってきました。これからの登録に当たって気を付けておく必要がある事柄にまつわるECHAからの情報発信があります。これらの情報を、筆者の担当の今回と次回に分けてその背景を含めてご紹介します。
REACH規則では、登録の情報提出から登録情報の公開までは、下記のステップで進められます1)。
以上のステップのうち、今回は2番目のステップの「技術的完全性のチェック」に関するECHAの動きについてご紹介します。
2013年3月13日に、チャーコール(charcoal:炭、木炭)の共同提出をしたリード登録者(以下、上訴人)から、i)共同登録以外にチャーコールの個別登録がある、ii)個別登録者の一部にはリード登録者等により得た情報を無断で使用している、iii)他の数社の個別登録者の情報には実質的に内容がないものがある、と主張する書簡がECHAに提出されました。その後、上訴人、特定された個別登録者、ECHAの間で、e-mail、REACH-ITでコミュニケーションがとられています。その中で、個別登録者が登録した物質は非段階導入物質であるとして追加の情報が提出され、ECHAは2013年7月19日に、追加提出された情報により完全性チェックに合格したとして、登録番号を付与する決定(A-022-2013)を下しました。ECHAは2013年10月17日にこの個別登録者を登録者リストとしてウエブ上で公表しました。
これに対し、2013年12月12日に上訴人は上訴委員会に上記の内容について提出し、上訴委員会は詳細な事実関係を審理し、2016年3月15日に下記の決定を発表しました2)。
この決定の理由は、①REACH規則の第10条(登録で提出すべき情報)及び第12条(トン数に応じて提出すべき情報)および②第11条(複数登録者の共同提出)に関連して、ECHAが第20条(2)に違反しているからです。特に、注目したいのは公表された決定文書では、2013年3月13日時点(上訴人がECHAに書簡を提出した日)で9件であった個別登録が、書面による手続きの過程で34件に、審議時にはさらに111件に増加していたことです。REACH規則の制定の意図には、物質のすべての関連データが共同提出の準備において評価されることを確実にし、また、EU工業界の競争力を高めるため、コストを最小限に抑え、すべての共同登録者間でデータのコストが共有されることを保証であることを指摘しています。
すなわち、今回の上訴委員会の決定は、改めてREACH規則の「1物質1登録」「データ共有」の原則を、厳密に運用することを求めていると理解できます。
なお、今回の上訴委員会の決定が公表される少し前に、「データ共有の実施規則」3)が2016年1月6日に官報で公布され、「データ共有の手引き」4)の更新版(バージョン3.1)が2017年1月13日に公開されています。
上記の上訴委員会の決定の発表後の2016年4月8日にECHAからは、これまでに提出されていた文書および今後新たに提出される文書について、更新されたツールで完全性チェックを実施することが発表されています。この完全性チェックでは、2016年にバージョンアップされたIUCLID(ICLID 6)で提出された情報が要求に適合しているかを改良されたREACH-ITでチェックし、REACH-ITでチェックできない項目はマニュアルで確認することになっています。当然、完全性チェックでは、「一物質一登録」「データ共有」の原則が守られているかを厳しく確認されることになると考えます。
完全性チェックが強化されてから、1,653の提出文書(提出された文書の33%)についてマニュアルチェックが行われています。その結果が2017年2月21日に発表されました5)。この内、20%に相当する提出文書(329件)には、情報の追加が要求されました。要求された内容と件数は下記の通りです。(2016年6月21日から2017年2月17日までに行われた完全性チェックの結果です。)
95%の文書は追加要求に従い必要な情報を更新され、完全性チェックをパスし、残り5%は、提出は却下されています。これは、期限内に更新情報が提出されなかったか、または2回目の完全性チェックにパスしなかったことによります。
従来からREACH規則の登録文書のチェックでは物質の識別情報に関する追加情報の提出の要求が多く出されています。前述の上訴案件の対象である「チャーコール」は、CAS 16291-96-6、EC 240-383-3ですが、UVCB物質です。木材等を焼成して炭化させた物質ですが、原料の木材の種類や焼成度合いなどで、物質の特性が変わる可能性があります。UVCB物質は、同一性を判断することが難しいと言われています。しかしながら、上訴案件では物質の識別情報についての判断は何もされていません。あくまでREACH規則が遵守されていたかにより、ECHAの決定が取り消されています。上訴委員会の決定では、個別者が共同登録の情報を必ず使用しなければならないとか、個別に登録してはならない等については何も要求していません。
ちなみに、本原稿執筆時点(3月1日)では、チャーコールの登録件数は119件あり、その内上訴人の登録を含めて共同登録が2件、個別登録は117件です。これらの個別登録の扱いがどのようになるかは、まだ確認できていません。
1)https://echa.europa.eu/support/registration/from-submission-to-decision
2)https://echa.europa.eu/documents/10162/56569ebe-dc6f-4831-aa72-6cc4819293ee
3)http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32016R0009
4)https://echa.europa.eu/documents/10162/13631/guidance_on_data_sharing_en.pdf/
545e4463-9e67-43f0-852f-35e70a8ead60
5)https://echa.europa.eu/-/enhanced-completeness-check-delivers-its-first-results
(林 譲)