ここが知りたいREACH規則

ここが知りたいREACH規則

EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介

2017.03.03

REACHにまつわる話(65)-登録に関する最近のニュースから(1)-

2018年5月31日の予備登録物質の登録期限が迫ってきました。これからの登録に当たって気を付けておく必要がある事柄にまつわるECHAからの情報発信があります。これらの情報を、筆者の担当の今回と次回に分けてその背景を含めてご紹介します。

REACH規則では、登録の情報提出から登録情報の公開までは、下記のステップで進められます1)

  1. ビジネスルールチェック
  2. 提出された文書がIUCLID形式で作成され、登録タイプに適合した管理情報と一致しており、ECHAによるその後の処理が可能であるかが確認される。
    ビジネスルールに合格すると、提出番号が送付され、登録に関する対応はこの番号のもとに行われる。ビジネスルールチェックを通らなければ、修正後、再提出することになる。
  3. 技術的完全性のチェック
  4. ビジネスルールに合格した提出文書に、REACH規則で要求される全ての情報が含まれているか、技術的な完全性のチェックが行われる。自動的にチェックが出来ない項目は、マニュアルで行われる。情報が不足している場合は、決められた期限内に不足の情報の提出が必要である(再提出)。再提出は1回だけ認められている。
    再提出に失敗すると当該文書の登録は拒絶され、新たな文書の提出が必要である。(既に納付された登録料は返戻されない。)
  5. 登録料の請求
  6. 技術的チェックと同時に登録料の請求書が、REACH-ITを通して発行される。期限までに、納付されない場合や納付が遅れた場合、登録は拒絶される。拒絶された場合、たとえ登録料を納付しても、返戻されない。登録には、新たな文書の提出が必要である。
  7. 登録の決定
  8. 完全性のチェックを通り、登録料が支払われていれば、ECHAから登録決定通知および登録番号をREACH-ITを通して受け取る。登録日は文書を提出した日付と同じである。
  9. 登録情報の公開
  10. ECHAは、登録情報のうち営業秘密でない情報を、ウエブで公開する。登録者は営業秘密にする情報を申請することができる。ECHAはこの申請を審査する。正当化されない場合は、その情報は公開される。

以上のステップのうち、今回は2番目のステップの「技術的完全性のチェック」に関するECHAの動きについてご紹介します。
 2013年3月13日に、チャーコール(charcoal:炭、木炭)の共同提出をしたリード登録者(以下、上訴人)から、i)共同登録以外にチャーコールの個別登録がある、ii)個別登録者の一部にはリード登録者等により得た情報を無断で使用している、iii)他の数社の個別登録者の情報には実質的に内容がないものがある、と主張する書簡がECHAに提出されました。その後、上訴人、特定された個別登録者、ECHAの間で、e-mail、REACH-ITでコミュニケーションがとられています。その中で、個別登録者が登録した物質は非段階導入物質であるとして追加の情報が提出され、ECHAは2013年7月19日に、追加提出された情報により完全性チェックに合格したとして、登録番号を付与する決定(A-022-2013)を下しました。ECHAは2013年10月17日にこの個別登録者を登録者リストとしてウエブ上で公表しました。
 これに対し、2013年12月12日に上訴人は上訴委員会に上記の内容について提出し、上訴委員会は詳細な事実関係を審理し、2016年3月15日に下記の決定を発表しました2)

  1. ECHAにより採択された2013年7月19日の決定(A-022-2013)を取り消す。
  2. 今後の検討のために本件をECHAの管轄機関に送付する。
  3. 上訴手数料の払い戻しを命じる。

この決定の理由は、①REACH規則の第10条(登録で提出すべき情報)及び第12条(トン数に応じて提出すべき情報)および②第11条(複数登録者の共同提出)に関連して、ECHAが第20条(2)に違反しているからです。特に、注目したいのは公表された決定文書では、2013年3月13日時点(上訴人がECHAに書簡を提出した日)で9件であった個別登録が、書面による手続きの過程で34件に、審議時にはさらに111件に増加していたことです。REACH規則の制定の意図には、物質のすべての関連データが共同提出の準備において評価されることを確実にし、また、EU工業界の競争力を高めるため、コストを最小限に抑え、すべての共同登録者間でデータのコストが共有されることを保証であることを指摘しています。
 すなわち、今回の上訴委員会の決定は、改めてREACH規則の「1物質1登録」「データ共有」の原則を、厳密に運用することを求めていると理解できます。

なお、今回の上訴委員会の決定が公表される少し前に、「データ共有の実施規則」3)が2016年1月6日に官報で公布され、「データ共有の手引き」4)の更新版(バージョン3.1)が2017年1月13日に公開されています。

上記の上訴委員会の決定の発表後の2016年4月8日にECHAからは、これまでに提出されていた文書および今後新たに提出される文書について、更新されたツールで完全性チェックを実施することが発表されています。この完全性チェックでは、2016年にバージョンアップされたIUCLID(ICLID 6)で提出された情報が要求に適合しているかを改良されたREACH-ITでチェックし、REACH-ITでチェックできない項目はマニュアルで確認することになっています。当然、完全性チェックでは、「一物質一登録」「データ共有」の原則が守られているかを厳しく確認されることになると考えます。

完全性チェックが強化されてから、1,653の提出文書(提出された文書の33%)についてマニュアルチェックが行われています。その結果が2017年2月21日に発表されました5)。この内、20%に相当する提出文書(329件)には、情報の追加が要求されました。要求された内容と件数は下記の通りです。(2016年6月21日から2017年2月17日までに行われた完全性チェックの結果です。)

  • データ免除の正当性 - 136文書
  • 物質の識別情報 - 180文書
  • テスト提案 - 33文書
  • 化学物質安全性報告書 - 11文書
    (追加情報を要求された文書数の合計は、360件になりますから、329文書の中には複数の項目の更新を要求されていたことになります。)

95%の文書は追加要求に従い必要な情報を更新され、完全性チェックをパスし、残り5%は、提出は却下されています。これは、期限内に更新情報が提出されなかったか、または2回目の完全性チェックにパスしなかったことによります。

従来からREACH規則の登録文書のチェックでは物質の識別情報に関する追加情報の提出の要求が多く出されています。前述の上訴案件の対象である「チャーコール」は、CAS 16291-96-6、EC 240-383-3ですが、UVCB物質です。木材等を焼成して炭化させた物質ですが、原料の木材の種類や焼成度合いなどで、物質の特性が変わる可能性があります。UVCB物質は、同一性を判断することが難しいと言われています。しかしながら、上訴案件では物質の識別情報についての判断は何もされていません。あくまでREACH規則が遵守されていたかにより、ECHAの決定が取り消されています。上訴委員会の決定では、個別者が共同登録の情報を必ず使用しなければならないとか、個別に登録してはならない等については何も要求していません。
 ちなみに、本原稿執筆時点(3月1日)では、チャーコールの登録件数は119件あり、その内上訴人の登録を含めて共同登録が2件、個別登録は117件です。これらの個別登録の扱いがどのようになるかは、まだ確認できていません。

1)https://echa.europa.eu/support/registration/from-submission-to-decision
2)https://echa.europa.eu/documents/10162/56569ebe-dc6f-4831-aa72-6cc4819293ee
3)http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32016R0009
4)https://echa.europa.eu/documents/10162/13631/guidance_on_data_sharing_en.pdf/
545e4463-9e67-43f0-852f-35e70a8ead60

5)https://echa.europa.eu/-/enhanced-completeness-check-delivers-its-first-results

(林 譲)

当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。 法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家に判断によるなど最終的な判断は読者の責任で行ってください。

情報提供:一般法人 東京都中小企業診断士協会

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