EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2017.03.10
REACH規則やCLP規則では、登録や各種の届出等の義務を通じて、企業は各種情報を作成し、所管当局に提供することが求められています。これらの義務は、製造者や輸入者、川下ユーザーあるいはEU域外企業が選任した唯一の代理人等、EU域内企業に課されています。しかしながら日本企業の中には、具体的なEU域内企業の対応方法について、ビジネスにおけるEU域内の顧客支援もしくは自社現地法人の対応支援として、具体的な手続き方法を確認したいというお問合せが頂くことがあります。
2016年1月22日付の本コラムで、ECHAが提供するガイダンス文書についてご紹介しましたが、ECHAはガイダンス文書以外にも、より具体的な手続きに特化した文書類も提供していますので、その一部をご紹介します。
実践ガイドは、特定の手続きや提出文書の作成、提出に特化し、そのベストプラクティスを「How to」として示したガイドです。ECHAのウェブサイト1)で提供されており、現在表-1に示す12種の実践ガイドが提供されています。
例えば、CLP規則が求める分類および表示の届出に示した「分類および表示インベントリーへの物質届出方法」では、関連する義務内容や対応要否といった情報に加えて、「3.届出の実践」として、届出に必要な情報は何かにはじまり、届出の準備、届出情報の作成、届出情報の提出、情報更新の方法が概説されています。
REACH規則やCLP規則の条文やガイダンス文書等によって、義務や対応事項について理解を深めた上で、この実践ガイドを確認することによって、より具体的な手順を理解することができます。
タイトル | 版数 | 公表日 |
---|---|---|
中小企業担当者向け実践ガイド-年間1~10トン、10トン~100トンのトン数帯における情報要件を満たす方法- 【概要】中小企業担当者を対象に、登録に必要な各種の情報要件について「何を」「なぜ」「いつ」「誰が」「どのように」「どの程度の時間」で作成することが必要かについて説明 |
第1版 | 2016年7月 |
REACH規則の情報要件を満たす動物試験代替法の使用方法 【概要】不必要な動物試験を避けることが必要であることを周知するとともに、そのための代替手法の使用や報告方法について過去の登録やその評価に基づく推奨事項等を説明 |
第2版 | 2016年7月 |
(Q)SARの使用および報告方法 【概要】上記「REACH規則の情報要件を満たす動物試験代替法の使用方法」に記載された(Q)SARについて詳述し、(Q)SARを用いて物質特性を予測する際に考慮すべき事項等を説明 |
第3.1版 | 2016年7月 |
ロバスト調査要約書の報告方法 【概要】登録一式文書として必要となるロバスト調査要約書のIUCLIDによる作成方法をエンドポイントごとに説明 |
第2版 | 2012年11月 |
分類および表示インベントリーへの物質届出方法 【概要】主としてEU域内の製造者・輸入者向けにCLP規則に基づく分類および表示の届出要否や、届出を行う場合の準備および届出方法を説明 |
第1.1版 | 2012年6月 |
法人変更の報告方法 【概要】登録者等の合併や承継、売却、分割等による法人格の変更や、名称、住所等を変更する場合に必要な対応を説明 |
第1版 | 2010年4月 |
一式文書の評価におけるECHAとの連絡方法 【概要】登録一式文書に対するコンプライアンスチェックおよび試験提案審査の内容とその結果をECHAから通知された際の登録者の対応方法について説明 |
第1.1版 | 2015年7月 |
川下ユーザーにおけるばく露シナリオの取り扱い方法 【概要】川下ユーザーがばく露シナリオを受領した際に確認すべき内容や確認結果に応じた対応方法について説明 |
第2版 | 2016年5月 |
IUCLIDにおける毒性学的要約の作成方法とDNEL導出方法 【概要】IUCLIDによる毒性学的情報の要約の作成方法と結論となる導出無毒性量(DNEL)の導出方法を説明 |
第1版 | 2012年7月 |
定性的な健康評価の実施と化学物質安全性評価報告書(CSR)への記載方法 【概要】定性的な健康評価を実施する際の手順や方法論等とともに、CSRで明確に文書化する方法を説明 |
第1版 | 2012年11月 |
厳格に管理された条件下で物質が中間体として使用されるかの評価方法とIUCLIDでの中間体登録情報の報告方法 【概要】中間体の登録者および川下ユーザーを対象に、「厳格に管理された条件下で物質が中間体として使用される」への該当可否の確認や、必要な登録情報要件等について説明 |
第1版 | 2014年6月 |
川下ユーザーにおける化学物質安全性評価報告書(CSR)の作成方法 【概要】川下ユーザーがCSRを作成しなければならない場合における化学物質安全性評価(CSA)の実施方法や、文書化したCSRの作成、顧客への提供方法等について説明 |
第1版 | 2015年9月 |
REACH規則やCLP規則で求められる登録や届出、申請等で提出する各種文書類は、REACH-ITというオンラインシステムで提出することになります。また、提出する各種文書類はIUCLIDを用いて作成することができます。
そのため、ECHAは「文書の提出ツール」を解説するウェブサイト2)を通じて各種の義務に応じたIUCLIDおよびREACH-ITによる文書作成・提出について順を追って説明した「マニュアル」を提供しています。現在、提出文書の種別に応じて、表-2に示す7種のマニュアルが提供されています。
なお、提出情報が比較的簡易なCLP規則の届出や成形品中の物質に関する届出等は、必要情報をREACH-ITに直接入力することも可能となっています。
タイトル | 版数 | 公表日 |
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登録およびPPORD一式文書の作成方法 | 第3版 | 2017年1月 |
照会一式文書の作成方法 | 第2版 | 2017年1月 |
分類および表示に関する届出文書の作成方法 | 第2版 | 2017年1月 |
混合物中の物質に関する代替物質名の使用要求の作成方法 | 第2版 | 2017年1月 |
成形品中の物質に関する届出の作成方法 | 第2版 | 2017年1月 |
川下ユーザーの報告作成方法 | 第2版 | 2017年1月 |
認可申請の作成方法 | 第2版 | 2017年1月 |
これら実践ガイドやマニュアルは、REACH規則やCLP規則の義務に対応するために、提出が求めあれる各種文書の作成や提出をより具体的に示した参考文書です。具体的な手続きの実施は、EU域内企業(現地法人等)で対応するケースが多いものと想定されます。そのため、日本のご担当者である読者の皆様がこれらの手続きを行うケースはあまりないのかもしれませんが、具体的にどのような手続きが必要であるかを理解しておくことは、EU域内企業への情報提供や指示の際に有用であると考えます。
(井上 晋一)