EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2017.04.07
EUでは、市場から危険な製品を排除することを目的に、EU委員会を通じた参加国内での迅速な情報交換を行うための「RAPEX」が運用されています。この通知内容については、都度の週次レポートに加え、毎年、年次報告書として傾向が取りまとめられています。
欧州委員会(EC)は3月16日に2016年の年次報告書を公表したことを発表 1)しましたので、その概要をご紹介します。
2016年の年次報告書 2)によると、2016年の通知件数は2,044件であり、2015年の2,123件から若干減少しています。また、2016年はインターネット経由で消費者に直接出荷される製品に焦点が当てられており、全通知件数のうち、244件がインターネット販売による製品を対象とした通知であったことが指摘されています。インターネット販売の拡大に伴い、既に複数の加盟国では、インターネット販売の監視や追跡を行う専門組織が設置されており、また、欧州委員会等は主要なインターネット販売サイト運営企業と協力関係に基づき、、当局が特定した製品の販売を中止する等の対応をする等の対応を図っています。
2016年7月に公表された「EU製品規則の実施に関する「ブルーガイド」2016 3)」においてもインターネット販売企業の義務が明示される等、インターネット経由で消費者に直接出荷される製品の安全性について、当局が重要な課題として位置づけていることがうかがえます。
この通知の内訳として、「製品カテゴリー」「リスク」「原産国」のそれぞれの上位は次のような構成となっています。
製品カテゴリー | リスク | 原産国 | |
---|---|---|---|
第1位 | 玩具(26%) | けが(25%) | 中国(53%) |
第2位 | 自動車(18%) | 化学物質(23%) | EU(23%) |
第3位 | 衣類・繊維製品(13%) | 絞扼(14%) | 不明(8%) |
第4位 | 電気製品(7%) | 電気ショック(11%) | 米国(5%) |
第5位 | 育児用品(5%) | 火災(9%) | トルコ(3%) |
製品カテゴリー別に見ると、「玩具」が最も多い点は2015年と同様となっていますが、2015年に第2位となっていた「衣類・繊維製品」よりも、2016年は「自動車」の割合が高くなっています。
リスク別では、2015年に初めて「化学物質」の割合が25%と最も多くなっていましたが、2016年は「けが」が25%と最も多くなり、2014年以前の順位に戻った形です。この理由としては、前述の製品カテゴリーで「自動車」の割合が高まり、そのリスクの大半が「けが」であることが挙げられています。
次に、原産国別に見ると、これまで同様、EUの最大の輸入国である中国が53%と半数以上の割合を占めている状況です。次いでEU、原産国不明、米国、トルコの順になっています。中国の割合が半数以上を占めているものの、2013年の64%を頂点に、その後、割合が減少傾向となっており、10年間にわたるEUと中国の連携による成果が徐々に上がりつつあることが示されています。
なお、日本が原産国であった製品の通知は39件であり、製品カテゴリーで見ると大半を自動車が占めていました。
また、消費者に影響を及ぼす製品に対する是正措置の割合としては、当局が主導して製品回収や販売停止、輸入禁止といった強制措置が全体の57%を占め、このうちの6%が税関主導で実施されています。なお残りは企業による「自主的措置(43%)」でした。
年次報告書では、化学物質リスクに起因する通知として、玩具や育児用品中のフタル酸エステル類や繊維製品中のアゾ染料、皮革製品中の六価クロムについて言及されています。これらはいずれもREACH規則附属書XVIIによって制限が課され、消費者への健康影響が懸念される物質および製品の組み合わせです。
また、製品含有化学物質に関する法規制は消費者への健康影響以外にも環境影響を防止することを目的にしているものもあり、これらの法規制違反については、「環境」リスクとして別に分類されています。2016年の通知内容を確認する次のような違反事例が挙げられています。
なお、2017年の通知を検索すると、既に約450件が公表されており、このうちの80件が消費者向け製品のREACH規則の制限違反等の化学物質リスクに基づく通知として、7件がRoHS指令やPOPs規則違反等の環境リスクに基づく通知として公表されています。
RAPEXで公表される通知事例は、場合によっては読者の方々が提供する製品には直接的には関係しない場合もあると思います。しかしながら、REACH規則、RoHS指令、POPs規則で規制される物質のうち、一般的にどのような物質の含有可能性が高いかを改めて確認する意味で、RAPEXに掲載される個々の含有事例は参考になるものと思われます。
(井上 晋一)
1)欧州委員会プレスリリース
http://europa.eu/rapid/press-release_IP-17-602_en.htm
2)2016年RAPEX年次報告書
http://ec.europa.eu/consumers/consumers_safety/safety_products/rapex/alerts/repository/
content/pages/rapex/reports/docs/rapex_annual_report_2016_en.pdf
3)EU製品規則の実施に関する「ブルーガイド」2016
http://ec.europa.eu/DocsRoom/documents/18027