EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2017.11.17
GHSシステムは、既に多くの地域、国に導入されています。化学物質管理体制の構築を進めている東南アジアの諸国においても、化学品の危険有害性の情報伝達のためにGHSの導入が進んでいます。
GHSを導入している国へ化学品を輸出する場合に、ラベルやSDSの作成で困っておられるとの声をお聞きすることがあります。その中の一つに、化学物質の分類をどのようにするかがあります。
GHSは、化学品を物理化学的危険性および健康や環境に対する有害性に応じて分類するために調和された判定基準を定めています。
EU CLP規則では、調和された分類表が決められており、これらの物質の分類を使用することが求められています。わが国でも政府により分類が行われ、そのデータが提供されています。ただし、政府が提供している分類結果は参考情報の位置づけで、それらの分類結果を採用するかしないかは企業の判断に任されており、異なる情報を持っていれば、これらの分類を採用しなくても良いことになっています。
グローバルにビジネスを展開する企業にとっては、化学物質の分類が、グローバルに調和されていると大変有難いことになります。
国連のGHS専門家小委員会では、2008年から「GHSにしたがって分類した化学物質リスト(GHSグローバル分類リスト)」の作成の検討が進められています。次回の本小委員会は2017年12月6~8日に開催される予定ですが、この会議に向けて事務局からこれまでの検討経緯、問題点、計画等をまとめた報告書が、2017年9月19日に出されています1)。今回は、この報告書の概要をご紹介します。
UNITAR(国連訓練調査研究所)が、「いくつかの監督当局が汎用物質の分類リストを作成することを選んだ」という事実に着目して、第15回小委員会に意見書を提出していました。この意見書では、複数のリストを作成すれば、国際的に流通している化学物質の分類の不調和と複雑さを増すことになると指摘していました。
その後、小委員会に提出された2件の調査研究から、既存のリストの間には次のような相違があることが示されました。
また、小委員会で実施した調査によれば、少なくとも5か国とEUがGHS分類リストを採択しています。さらに、IMO(海洋環境保護の科学的側面に関する合同グループ(GESAMP))、危険物輸送専門家小委員会(TDG小委員会)、WHO(農薬および国際化学物質安全性カード)が分類を行っています。これらのリストでは、いくつかの分類はGHS基準の適用から導出されていますが、他の分類では元の分類結果を変換しているものがあります。そのうちのいくつかの分類は、根拠とするデータが利用可能ですが、他の分類では利用できるデータがありません。
小委員会は、拘束力のないGHSグローバル分類リストを作成するにあたっての指針を策定しています。指針の原則は、公に入手可能で電子的にアクセス可能なデータから、利害関係者の情報をもとに分類を透明に展開し、拘束力のないものであることを確実にすることです。これらの原則を末尾に記載します。
小委員会は、長期にわたる議論の後、OECDと協力してパイロット分類プロジェクトを実施しています。このプロジェクトでは、使用するプロセスとグローバル分類リストを作成するのに必要なリソースを調査しました。パイロットプログラムでは、3つの化学物質について、スポンサー国が作成した分類草案をOECDのウェブサイトに公開し、利害関係者全員にはウェブサイトへのアクセスが許可され、コメントを募集していました。スポンサー国はコメントに基づいて文書を改訂し、コメントに対する回答を提出しています。
パイロットプロジェクトでは、3つの化学物質それぞれについて、拘束力のない合意された分類に達したという点で成功しています。また、グローバル分類リストを作成する場合には、十分なリソースと利害関係者の持続的コミットメントが必要であることが示されました。
また、非公式のグローバル分類リスト対応グループは、ECHAリスク評価委員会(ECHA RAC)の意見により出されたCLP附属書VIの分類と日本の分類リストの比較作業を開始しました。比較の結果、2つのリストに共通する89の化学物質の中で、同一の分類の物質はありませんでした。現在、2つのリスト間の不一致の原因を特定するための追加作業について予備的な議論が行われています。
これまでの2年の間で、小委員会は、グローバル分類リストの非公式の作業グループに対し、「グローバル分類リストプロジェクトで追加作業を保証する十分な利害があるかどうかを検討する」ことを指示しています。非公式の作業グループは、2017年7月11日の会議でプロジェクトの将来について話し合われています。
多くの専門家の間では、小委員会が指針に沿ったグローバル分類リストの作成を開始すべきだという強い要望がありました。この考えを支持する意見には、次のような内容があります。
一方、幾人かの専門家はグローバル分類リストの作成を進めることに対して、次のような懸念を表明している
9年間の研究の結果からこのプロジェクトは岐路に差し掛かっており、小委員会は、グローバル分類リストの策定を進めるかどうかの基本的な決定を下す時期が来ているとしています。
グローバル分類リストの作成を進めることを決定した場合は、指針の原則とプロセスの内容について項目の追加を行う必要があるとしています。指針の原則への追加項目としては、レビューのために物質の優先順位付け、グローバル分類リストに含める方法、物質をグループとして列挙できるかどうか等があります。プロセスに追加すべき項目としては、提案の提出と検討のための取り決め、小委員会が提案された分類を記録/合意/承認/推奨し、新しいデータや更新されたデータに基づいて既存の分類を更新すること、および、これらの活動のためのリソースの確保と管理の進め方があります。
以上、GHSグローバル分類リストの作成を進めるにあたっては、多くの課題があるようです。冒頭に書きましたように、企業にとっては、GHSグローバル分類リストが作成されると、助かることになりそうですが、拘束力のあるリストにすることは難しいようです。非拘束のグローバル分類リストが作成された場合は、既に作成されている分類リストとの関係を明確にされないと、混乱が起こりそうです。今後の推移に注目したいと思います。
(林 譲)
参考資料
1)http://www.unece.org/fileadmin/DAM/trans/doc/2017/dgac10c4/ST-SG-AC10-C4-2017-4e.pdf