EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2018.08.24
EUではフタル酸エステル類に対して、種々の規制が行われています。
このコラムでもフタル酸エステル類の認可対象物質候補リスト(CL)収載状況について適宜紹介しています。CLに収載されましたフタル酸エステルのうち、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ベンジルブチル(BBP)、およびフタル酸ジイソブチル(DIBP)は、REACH規則附属書XIVに収載され、2013年8月21日までに認可申請を提出し、認可されないと、日没日の2015年2月21日以降はEU域内では使用できません1)。上記4物質はすでに日没日を過ぎていますので、認可申請をしていない場合は、EU域内では上市・使用はできません。
また、REACH規則附属書XVIIのエントリー#51ではDEHP、DBPおよびBBPの3物質を1グループとして、また、#52ではフタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、およびフタル酸ジ-n-オクチル(DNOP)の3物質を1グループとして、玩具や育児用品へのフタル酸エステル類を使用することが制限されています。現行のエントリー#51の制限内容は表1の通りです。
列1 物質、物質グループ、または混合物の指定 |
列2 制限の条件 |
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エントリー No.51. フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP) CAS No.:117-81-7 EC No.:204-211-0 フタル酸ジブチル(DBP) CAS No.:84-74-2 EC No.:201-557-4 フタル酸ベンジルブチル(BBP) CAS No.:85-68-7 EC No.:201-622-7 |
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上記表1の「列1の第3節」には、本制限が制定された時点では、2010年1月16日までに欧州委員会が見直しをする規定が設けられていました。欧州委員会での見直しの結果、修正の必要がないとして、この規定の文言は削除されました2)。
他方、この見直し中の2011年4月14日にデンマークから「室内用途の成形品および皮膚、粘膜細胞への直接接触する成形品中のDEHP、DBP、BBP、およびDIBPの総含有量を制限する提案がされていましたが、その時点では提案された新たなリスクがあることは確認できないとして、この提案は採択されませんでした3)。
この検討結果を報告する欧州委員会からの文書には、要約すると下記のように記載されています。
ECHAには、附属書XIVに収載されている4種のフタル酸エステル(DEHP、DBP、BBP、DIBP)の日没日(2015年2月21日)以降に、成形品中へのフタル酸エステルの使用が人の健康や環境に対して十分に管理されているかどうかを見極める義務がある。
この評価においては、市場動向、使用パターン、バイオモニタリングに基づく体内蓄積量、成形品中濃度や成形品からの移行などを監視することが推奨される。
2013年4月9日および7月12日にデンマークから制限の提案がされているが、この提案にはバイオモニタリングデータなどの提案があり、日没日以前から、これら入手可能なデータの収集を実施することを、欧州委員会はECHAに要請する。
次のような場合には、生殖毒性1A/Bとして分類されるすべてのフタル酸エステルの複合ばく露による人の健康へのリスクを評価し、新たな制限を検討することになる。
このように、当初の4種のフタル酸エステルの制限案は採択されませんでしたが、改めて懸念を示す情報が収集され、今回のエントリー#51を修正する制限案が提出されました。ECHAで検討され、欧州委員会に送られたものです。
修正制限案は2018年3月28日にWTOへTBT通報されています4)。
また、欧州委員会では、2018年7月11日に全会一致で採択され、欧州議会と理事会に送付されました5)。早ければ、今年中に欧州議会と理事会で採択され、官報に公告されると予想されます。
提案されている制限内容の改正案は下表に示す通りです。
列1 物質、物質グループ、または混合物の指定 |
列2 制限の条件 |
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エントリー No.51. フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP) CAS No.:117-81-7 EC No.:204-211-0 フタル酸ジブチル(DBP) CAS No.:84-74-2 EC No.:201-557-4 フタル酸ベンジルブチル(BBP) CAS No.:85-68-7 EC No.:201-622-7 フタル酸ジイソブチル(DIBP) CAS No.:84-69-5 EC No.:201-553-2 |
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今回の修正案では、現行の3種フタル酸エステルにDIBPが追加されました。また、条件があるとは言え、すべての成形品が対象になります。
REACH規則では、これら4種のフタル酸エステルはすでに認可対象物質として規制され、その日没日2015年2月21月以降は、EU域内では使用できません。そのため今回の修正制限案の適用は、EU域外の成形品が対象になります。
なお、RoHS(II)では、2019年7月22日からは、電気電子製品を構成する均質材料にREACH規則で認可対象物質となっているDEHP、DBP、BBP、およびDIBPを含有することが制限される予定であるため6)、RoHS指令適用製品は、本制限から除外されることになっています。
なお、REACH規則附属書XVIIの改正に関する動き(2017.10.27)、4種のフタル酸エステル類に関するREACH規則とRoHS指令の関係(2018.01.26)のコラムも参照ください。
参考資料
1)https://echa.europa.eu/authorisation-list
2)https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2015/326/oj/eng
3)https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:52014XC0809(01)&from=EN
4)http://ec.europa.eu/growth/tools-databases/tbt/en/search/?tbtaction=search.detail&Country_ID=EU&num=564&dspLang=en&basdatedeb=&basdatefin=&baspays=&basnotifnum=&basnotifnum2=&bastypepays=CE&baskeywords=REACH
5)http://europa.eu/rapid/midday-express-11-07-2018.htm
6)https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32015L0863&from=EN
(林 譲)