ここが知りたいREACH規則

ここが知りたいREACH規則

EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介

2018.11.16

REACHに関わる最近の情報から-附属書XVII収載の制限物質制定の手続きについて-

2018年10月12日付のEU官報で、附属書XVIIにエントリー#72として、人と接触する可能性のあるCMR物質を含有する衣服、履物、カーペットなどの織物などの上市制限が公示1)されました。適用は2020年11月1日となっています。

エントリー#72は、ECHAで通常公表されている手続きとは異なり、簡素化された手続で制定されました。今回は、改めて制限物質制定の手続きについて整理しておきたいと思います。

REACH規則の第68条「新たに導入及び改正される既存の制限」では、下記のように規定されています。

第68条(環境省仮訳より)
 1. 物質の製造、使用又は上市から生じる人の健康又は環境への許容できないリスクであって欧州共同体ベースで対処する必要がある場合には、第69 条から第73条までに定める手続きに従って、物質そのもの、混合物又は成形品に含まれる物質の製造、使用又は上市について、新たな制限の採用、又は附属書XVII にある現行の制限の改正を行うことにより、第133条(4)に記す手続きに従って附属書XVII が改正されなければならない。このようなあらゆる決定は、代替物質の利用可能性を含め、その制限についての社会経済的影響を考慮しなければならない。
 第1段落は、現場で単離される中間体のような物質の使用に適用しない。

2. 発がん性、変異原性又は生殖毒性の区分1又は区分2としての分類の基準に合致し、消費者により使用されるおそれがあり、欧州委員会が消費者の使用の制限を提案している物質そのもの、混合物又は成形品に含まれる物質については、第133条(4)に記す手続きに従って、附属書XVIIが改正される。第69条から第73条までは適用されない。

ここで、言及されている第133条(4)は「専門委員会の手続き」として下記のように規定されています。

第133条(4):本項について言及されている場合には、第8条の規定を考慮して、決定1999/468/ECの第5a条(1)から(4)まで及び第7条が適用されなければならない。

この専門家委員会は後述する「CARACAL」が該当すると考えることができます。なお、「決定1999/468/EC」は「規則(EU)No.182/2011」2)に移行しています。欧州委員会による実施権限の行使に対する各加盟国による監督方法に関するルールおよび一般原則を定めるもので、「コミトロジー」と呼ばれています。

第68条の1項の「第69条から第73条までに定める手続き」は、ECHAの下で実施されているもので、ECHAのホームページに公開されているものです。この手続きは図1のように示すことができます。
 まず、加盟国または欧州委員会の要請に基づいてECHAから制限提案の意向が示され(Registry of Intention)ます。この意向の通知から12カ月以内に附属書XVの制限提案書が提出され、その提案に対して図1に示すフローに従って検討・審議が行われます。

図1:第68条1の制限物質制定の手続きフロー

他方、第68条の2項の手続きでは、欧州委員会が直接提案することになり、図1に示す手続きを経ずに決定されます。今回公示されたエントリー#72は、この第68条2項の手続きで決定されています3)。これまでこの手続きが取られた制限内容としては、エントリー#50の成形品中における多環芳香族化合物(PAH)の含有制限があげられています。

今回公示されたエントリー#72の検討経緯を調べてみますと、欧州委員会に専門家グループとして設置された「Competent Authorities for Registration, Evaluation, Authorisation and restriction of CHemicals(REACH)and Classification, Labelling and Packaging (CLP):CARACAL」で検討が進められていました。
 2014年11月の第16回CARACALの会議資料には、今回の制限提案の基本的は考え方が記載されています4)。その後のCARACALの会議資料などを見ますと、ECHA、加盟国の管理当局と協力して検討が進められていますが、ECHAのホームページでは、これらの情報は開示されていませんでした。

なお、2018年10月12日付のEU官報で新たに追加されたエントリー#72の制限内容は、下表のとおりです。

エントリー72
付録12の表の1欄に収載された物質
1. 2020年11月1日以降、下記の場合には上市してはならない。
 (a)衣料品または関連付属品
 (b)衣服以外の織物であって、通常または合理的に予見可能な使用条件の下で、衣類と同程度に、人間の皮膚に接触するもの
 (c)履物
 衣料品または関連付属品、衣類以外の織物が消費者向けの用途のものであり、付録12に物質が、物質毎に特定された濃度と等しいか、あるいは、それ以上の濃度で均質材料中に含有する場合。

2. 上項にかかわらず、ホルムアルデヒド[CAS No. 50-00-0]を含有するジャケット、コートまたは室内装飾品については、2020年11月1日から2023年11月1日までは、許容含有濃度は300mg/kgとする。付録12に規定する濃度はそれ以降から適用する。

3. 第1項は下記には適用しない。
 (a)天然皮革、毛皮または皮でのみ製造された衣料品、関連するアクセサリー又は履物
 (b)非織物の留め具および非織物の装飾附属品。
 (c)中古の衣料品、関連アクセサリー、衣料品または履物以外の織物
 (d)壁から壁までのカーペットおよび屋内用の布製床材、敷物およびランナー

4. 第1項は、欧州議会及び理事会規則2016/425*または欧州議会と理事会規則(EU)2017/745**が適用される衣料品、関連付属品、衣服以外の織物または履物には適用しない。

5. 第1項(b)は、使い捨て織物には適用しない。「使い捨てテキスタイル」とは、1回または限られた時間だけ使用されるように設計され、同じ目的またはそれに類似した目的のためにその後は使用することを意図していない織物を意味する。

6. 第1項および第2項は、この附属書または他の適用されるEUの法律に定められているより厳しい制限の適用を損なうことなく適用される。

7. 欧州委員会は、第3項(d)の適用除外を見直し、必要があれば修正を行う。

*個人保護具規則、**医療機器規則

制限される物質リストは割愛させていただきますが、付録12に33種の物質、物質グループが指定されています。
 33種の物質・物質グループの中には認可対象物質も含まれています。そのような物質としては、例えば、下記のフタル酸エステル類があげられます。

  • 1,2-ベンゼンジカルボン酸ジC6~8分岐アルキルエステル、C7が主
  • フタル酸ビス(2-メトキシエチル)
  • フタル酸ジイソぺンチル
  • フタル酸ジn-ペンチル(DPP)

これら物質の認可を取得していなければ、EU域内で使用・上市ができなくなる「日没日」は2020年7月4日となっています。認可では成形品は対象外のため、認可対象物質を含む成形品については日没日以降にECHAによってリスク評価が行われ、リスクが大きい場合は、成形品に対する制限が検討されることになります(REACH規則第58条6項、第69条2項)。

しかしながら、今回のケースでは認可と制限が個別に検討されたことによって、日没日直後(2020年11月1日)から、エントリー#72の対象となっている成形品の上市も禁止されることになります。

参考資料
1)https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?qid=1539332435447&uri=CELEX:32018R1513
2)https://eur-lex.europa.eu/legal-content/en/TXT/?uri=celex:32011R0182
3)http://ec.europa.eu/growth/sectors/chemicals/reach/restrictions_en
4)http://ec.europa.eu/DocsRoom/documents/24801/attachments/1/translations/

林 譲

当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。 法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家に判断によるなど最終的な判断は読者の責任で行ってください。

情報提供:一般法人 東京都中小企業診断士協会

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