電子・電気部品に関する欧州の環境規制(RoHS指令)について紹介
2015.05.15
2015年3月31日にEU委員会は、RoHS指令(2011/65/EU)の附属書II(第4条1項に定める規制物質及び均質材料中の重量比での最大許容濃度)に4物質追加する改正案を理事会および議会に提案しました。このCover Note(本文と附属書)が理事会から出されています。
その後、EU委員会の改正案採択に異議を申し立てる期限は、2カ月後の5月31日ですが、4月29日に常駐代表委員会(COREPER)が反対しない方向を示唆しています1)。
COREPERは加盟国代表によって構成され、毎週理事会の作業準備のため開催しています。COREPERでの決定は理事会決定になるのが通例です。
改正内容は次項に記述しますが、2014年12月17日にWTOに出された内容と同じです。
改正本文第1条は「RoHS指令(2011/65/EU)の附属書IIを附属書に置き換える」となっています。附属書に示されている制限物質と最大許容濃度は以下です。
viiからxが新規追加物質です。新規追加4物質についての適用時期は次です。
第8製品群(体外診断用医療装置を含む医療用装置)および第9製品群(工業用監視および制御機器を含む監視および制御機器)は、2021年7月22日から適用です。
第8製品群および第9製品群以外の製品群およびスペアパーツおよびケーブルは、2019年7月22日以降上市する製品に適用されます。
新規追加のDEHP、BBP、DBPは、REACH規則の制限物質(No51項目)で、玩具への使用が制限されています。このため、RoHS指令の適用範囲の玩具には適用されません。
改正本文は3つのパートで構成されています。
第1ブロック:説明メモ
改正根拠、手続きはRoHS指令第6条(附属書IIの制限物質リストの見直しと改定)によるとしています。第6条第1項では、(a)-(d)の考慮事項、第2項で提案文書に含めるべき情報として(a)-(g)を求めています。これらが、説明メモに記述されています。
なお、第6条第3項では、附属書IIの制限物質リストの見直しと改定は理事会と議会からの委任により、第20条の条件でEU委員会が採択します。この手続きの1つとして、3月31日にEU委員会が議会及び理事会に提案したものです。
説明メモでも、附属書IIの制限物質はREACH規則と一貫性を持ち、認可物質(附属書XIV)と制限物質(附属書XVII)を考慮するとしています。
4物質はREACH規則の認可物質であり代替物質もあるので、RoHS指令の制限物質にもするものです。DIBPは、当初は対象としていませんでしたが、追加した理由が記述されています。当初データではDIBPは紙や食品包装用接着剤やインクの可塑剤、おもちゃ、育児用品や消費者製品の広い範囲で使用されていますが、電気電子製品には使われていなく対象としていなかったものです。DIBPはBBPと同様の特性を持っており、代替使用される場合は、同じ評価になり、同じ制限にする必要があります。
DIBP対策はこの「残念な代替」を回避するために、他の3つのフタル酸エステル類の制限に同じにする必要があるとされました。
説明メモの第1項で、RoHS指令第6条の改正の主旨が記述されていますが、制限物質は廃棄段階(リサイクル作業者の作業ばく露を含む)での負の影響を考えています。大量に使用される物質が廃棄段階で影響が大きくなりますので、DIBPは当初は使用量が少なかったので制限対象としていなかったものです。大量に使用される物質が対象となることを示唆しています。
第2ブロック:改正法の前文
前文第6項で、REACH規則の制限では、玩具についてDEHP、BBP、DBPの3物質の合計濃度が0.1%で、電気電子玩具はREACH規則を適用しRoHS指令は適用しないとしています。RoHS指令の最大許容濃度は均質物質当たりで、個々の物質の濃度で合計濃度計算をしません。
川中のサプライヤーは、セットメーカーの用途が玩具か一般電気電子機器か分からない場合があり、悩ましいところです。
第3ブロック:本文
4条構成ですが、第1条はRoHS指令(2011/65/EU)の附属書IIを改正案の附属書に置き換える、第2条で国内法は2016年12月31日までに制定することを求めています。
今後も附属書III、IVの除外やさらに附属書IIの物質追加などの改定が予定されていますので、この改定手順を整理してみたいと思います。
RoHS指令では、第4条の特定有害化学物質の追加削除や最大許容濃度の設定、附属書III、附属書IVの改定については、第20条(委任の行使)でEU委員会(Commission)に権限が委任されています。EU委員会が委任行為を行使するにあたり、第19条(小委員会手続き)により小委員会(committee)により補佐を受けることになります。いわゆるコミトロジー手続きによるものです。
コミトロジー手続きはリスボン条約で大きく改正され〔改正EU基本条約 EU機能条約(TFEU)〕ており、この手順で、前記改正本文が作成されています。TFEU第290条では、本質的でない特定の要素についての立法行為について、EU議会および理事会はEU委員会に委任します。この時に、権限委任の目的、内容、期間や条件を明示します。RoHS指令では、第20条から第22条に明記されています。
委任行為についての行使は、必要に応じて専門家グループの支援を要請して、議会、理事会に提案し、議会、理事会が否決しない限り採択するものです。
なお、委任行為による法改正の場合は、改正指令の名称に「delegated」が付けられ「COMMISSION DELEGATED DIRECTIVE../…/EU」のようになります。規則(regulation)も同じです。TFEU第291条の諮問手続き(小委員会が要件のコミトロジー手続き)の場合は「implementing」が表記されます。
TFEU第290条の委任行為ではコミトロジーの小委員会は要件ではないのですが、RoHS指令第19条により規則182/2011(EU委員会の実施権限の行使を統制する仕組み)の第3条(共通規定)の小委員会の補佐を受けて、第5条(審査手続き)で行います。
審査手続きでは、小委員会がEU委員会の提案に特定多数決で賛成した場合は、EU委員会は原案を採択し、EU議会及び理事会に通知します。なお、小委員会が反対した場合は、採択ができませんが、修正案を出すことができます。
実際には、EU議会とEU理事会の議長間での書簡「委任行為に関する共通認識」により、草案の段階でEU委員会から送付を受けています。草案で協議をしており、採択の通知を受けて反対の意志が無い場合は、早期にその意思を通知して、官報への掲載を早める運用がされています。
3月31日に小委員会の採択を得て、EU委員会は改正案を議会及び理事会に提案したものです。
議会および理事会が2カ月以内(5月31日)に異議を申し立てない場合は、EU委員会は採択します。議会または理事会のどちらかが、特定多数決で否決した場合は、廃案となります。
REACH規則の認可と制限とRoHS指令の関係は、調和されて運用されます。RoHS指令の附属書IIの制限物質の追加では、特に気になるところで、説明メモの中でもREACH規則との関係を説明しています。
EU委員会から「REACH AND DIRECTIVE 2011/65/EU(RoHS) A COMMON UNDERSTANDING」が作成されて、RoHS指令とREACH規則の規制は共通理解で運用されています。
この「共通の理解」では、次の3つのケースが検討されています。
(1)RoHS指令の附属書IIに収載されている物質をREACH規則で認可提案する場合
(2)RoHS指令の附属書IIに新たに追加する物質がREACH規則の認可物質である場合
(3)RoHS指令の附属書IIとREACH規則の認可物質でないが、管理措置が考慮される場合
これら内容は6月のコラムで説明する予定です。
(松浦 徹也)
1)http://data.consilium.europa.eu/doc/document/ST-8443-2015-INIT/en/pdf