EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2009.10.09
2009年8月7日付けのREACHコラムで紹介しましたが、成形品に関するガイダンス改定の検討が進められています。先に発表されたガイダンスの改訂ドラフトについては、SVHCの濃度計算や情報提供に関しては改訂作業中で、これまでのガイダンスの内容が変わる可能性はありますが、物質/混合物と成形品の境界についての考え方は、説明が詳しくなり理解しやすくなりました。しかし、それらの説明を参考にしても、ある種のポリマー製品の特性を考えますと、筆者の考えが至らないのかもしれませんが、物質/混合物と成形品に境界を決めるのに悩むケースがあります。今回は、その例として、ビーズ状のイオン交換樹脂とイオン交換膜を比較して紹介します。
ビーズ状のイオン交換樹脂は、一般的には直径0.5mm程度のスチレンとジビニルベンゼンの架橋ポリマー粒子にイオン交換能のあるスルホン基や4級アンモニウム基などを結合させたものです(前者を陽イオン交換樹脂、後者を陰イオン交換樹脂と呼びます)。例えば、水中のNa+、K+などのプラスイオン種はスルホン基で、Cl-、SO4-2のマイナスイオン種は4級アンモニウム基で吸着させます。筆者の学生時代は純水を作成するのに大変便利なものとして利用していました。
それでは、このビーズ状のイオン交換樹脂が、REACH規則では物質/混合物なのか、あるいは成形品なのかを判断するには、8月7日付けコラムに紹介しました判断の6番目のステップの以下の設問を考えるのが適当のようです。
1)に対しては、消費者がビーズ状のイオン交換樹脂を購入するのは、ビーズ状であることではなくそのイオン交換能をもっていること、すなわち、化学組成であるといえます。また、2)に対しては、イオン交換能は酸やアルカリで再生、すなわち、厳密に言いますと化学変化させることができます。このように考えると、この設問からも物質(/混合物)と考えてもよいようです。
このように考えるとビーズ状イオン交換樹脂はポリマーですので、REACH規則上は、その構成成分であるスチレン、ジビニルベンゼンあるいはイオン交換基を導入する化学種の登録義務があるとの結論になるようです。
他方、イオン交換膜は、ビーズ状のイオン交換樹脂と同じ様なイオン交換能をもたせたものを膜状に加工したものです。イオン交換膜が物質か成形品かの判断を、上述と同じ設問で考えてみると同じ結論になってしまいます。しかし、イオン交換膜は実用上膜であること、すなわちフイルム形状であること、かつイオン交換能をもっていることが重要であると考えられます。これをどちらに比重を置くかで判断が変わりそうですし、常識的には成形品であると考えてもよさそうです。
以上、物体の機能が化学組成かあるいは形態・表面・デザインによるかの判断は、その重点をどこに置くかで変わる場合がありそうです。
これまで多くのREACH規則のガイダンスが発表され、また、その改訂も進められています。このことを考えると、EU当局者の中でも、実施に当たっての考えについてこれからまだまだ整理されなければならない点が多く残されているように思います。今後も走りながら考えが修正されていくのではないかと考えます。
(林 譲)