EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2012.05.18
REACH規則の第14条では、1物質あたり製造量、輸入量の合計が年間10t以上の場合「特定された用途」について化学物質安全性評価(以下CSA)を行い、物質の登録の際に技術一式文書の提出に加え、当該CSAに基づいて作成した化学物質安全性報告書(以下CSR)の提出が義務付けられています。
従来、企業はECHAによって作成された「CSRプラグイン」を用いて部分的にCSAやCSRの作成を行ってきましたがその多くが手作業でした。
2010年7月にECHAは、上述のCSA、CSRおよび安全データシート(以下SDS)等の作成支援するツールとして、Chesar(Chemical Safety Assessment and Reporting tool :カイザー) を開発し提供しました。Chesarはver1が2010年7月にリリースされ、以降バージョンアップが継続的に行われ、現在はver1.2が2011年8月5日にリリースされています*1。
ECHAは「Chesar」の改定版(ver2.0)の更新予定を4月18日に発表しました。それによりますと、Chesar ver2.0は3段階での公開が予定されています*2。
Chesar ver2.0は、今夏に予定されている国際統一データベースセット(IUCLID ver5.4)のデータセットにあわせたCSAの実施やCSRの作成をサポートし、2013年のREACH規則第2次登録期限に向けて安定したツールをサポートすることを目的として3段階でリリースされる予定です。
Chesar ver2.0 では、労働者の暴露推算アルゴリズムについての改善と消費者の暴露推算アルゴリズムの導入が行われる予定です。そのアルゴリズムは、欧州の化学関連企業が出資している独立系の科学組織ECETOCが開発、改訂し、リリース予定の労働者と消費者の暴露評価ツールであるECETOC TRA ver2に基づくものが含まれる予定です。
このリリースでは、たとえば以下のような改善内容が予定されています。
アプリケーションの長期間の保守が可能なようにコード自体が広範に見直されています。外部ユーザによる第1ラウンドテストは、アプリケーションの技術的な安定性とユーザ親和性が強調されています。
リリースのスケジュールと主要機能は以下のようです。
【Chesar ver2.0/2012年6月末】
IUCLID ver5.4 データセットに基づいたCSAを実行し、CSRの第9章と第10章を生成するための機能を含んでいます。しかし、コミュニケーションのための暴露シナリオを自動生成する機能は含んでいません。
【Chesar ver2.1/2012年秋の計画】このリリースは、ECETOC(TRA)によって開発された消費者向け暴露推算ツールを含んでいます。CEFICのEScomプロジェクトでの進歩に基づき、コミュニケーション向けの暴露シナリオの生成を準備するための標準文言ライブラリが含まれるかもしれません。
【Chesar ver2.2】
コミュニケーション用暴露シナリオの生成に関連する機能を追加します。このリリースは、2012年末もしくは2013年の初めが予定されています。
並行して現行のCSRジェネレータ (IUCLID plug-in) は、Chesar ver2.0からIUCLID ver5.4を使用の際、情報をエキスポートできIUCLID ver5.4とChesar ver2.0のコンバインにより完全なCSRの生成ができるように更新されます。この更新ソフトウェアのリリースは2012年第3四半期が予定されています。
【2013年以降の展望】
ECHAは2013年以降もChesarを維持し、さらに発展させます。現在のアイデアでは物質のタイプに関連する評価能力の拡大、暴露ツールの広範囲なリンクの立上げ、そして(または)川下ユーザタスクに対する特に有用な機能開発等IUCLIDとの一層の統合(インテグレーション)が含まれます。
ECHAのCSA/CSRツールであるChesarは、登録者が構造的、調和的そして効率的方法で安全性評価を行うことを可能にします。
これは、以下の機能を含んでいます。
これに基づいてChesarは、CSRおよびコミュニケーション用の暴露シナリオを電子交換フォーマットおよびテキスト文書として生成します。
さらに、ECHAは4月11日にIUCLID ver5.4を5月下旬にリリースし、またIUCLID ver 5.4に対応したREACH-ITを今夏にリリースすることを発表しています*2。
IUCLID ver5.4の主要機能は、CSRに含まれる一定の物質情報がどのように報告されるかに関して変更されています。併せて、SDSに含まれている一定の情報がパプリックに利用できるように配慮されています。
IUCLID 5の更新後、今夏後半にREACH-ITの新版がリリースされる予定です。この新版は、IUCLID ver5.4ドシエのみに対応しています。ECHAは利害関係者の便宜のため、有用な情報提供を目的としてQ&Aを発行しています*3。当該Q&Aの第4問には、ECHAにIUCLID ver5.4ドシエを提出できる時期について以下の情報が提供されています。
IUCLID ver5.4フォーマットで生成されたREACHおよびCLPドシエは、REACH-ITの新しいバージョンがリリース後にECHAで受理されます。それまでは、IUCLID ver5.3 ドシエのみがECHAにより受理されます。
これは初版であれ更新版であれ、REACH-IT経由でEACHに提出されるすべてのドシエ (IUCLIDで生成された登録ドシエ、PPORD、Inquiry、DUレポート、SIA届出、CLP届出等)もしくはマニュアル提出システム(例えば認可申請、CLP規則第24条による代替化学物質名要求、当局により提出されるドシエ等)の使用に適用されます。
IUCLID ver5.4およびREACH-ITのリリースとIUCLID ver5.4ドシエの提出に関連するスケジュールについて以下に図示します。
(瀧山 森雄)