EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2015.05.08
米国では国全体を共通的に規制する「連邦法」のうち化学物質に関連の深い、有害物質管理法(TSCA)の改訂1、2)や消費者製品安全改善法(CPSIA)の改訂が検討されています。
一方、州法においては、州の中でも先駆的な環境法規制を設けるカリフォルニア州で2013年10月1日に施行された「安全消費者製品規則(SCPR)」はすべての消費者向け製品を対象として化学物質規制であり、現在も行政当局における検討が継続して実施されています。
本コラムでは、4月に公表された2015年から2017年までの優先製品特定に関する3カ年作業計画について紹介します。
1.SCPR(安全消費者製品規則)の概要と優先製品特定に関する3カ年作業計画の位置づけ
SCPRは4段階の枠組みで取組みが行われています。
現在は優先製品の特定が進められているところで、2014年3月に3製品が優先製品案として公表され、現在議論が行われているところです。
また、下図のとおり、優先製品案の前段階として位置づけられている優先製品特定に関する3カ年作業計画が2015年4月に公表されました。
(「優先製品3カ年作業計画 2015-2017年」をもとに作成)
2.優先製品特定に関する3カ年作業計画
作業計画に収載する製品カテゴリーのスクリーニングにあたっては、次の5つの原則に基づき、含有する化学物質の有害性やエンドポイント、暴露経路、用途、既存調査研究等のさまざまな観点から検討が行われました。
その結果、現在、優先製品案として挙げられている3製品に続いて今後、優先製品特定に向けて検討される製品カテゴリーとして次の7つの製品カテゴリーが挙げられるとともに、これらの製品カテゴリーに関連する候補化学物質(CoC)リストに収載された化学物質の例が明記されています。
なお、作業計画は毎年見直される予定となっています。
製品カテゴリー | 例示製品 | 関連化学物質 | 化学物質の用途 |
---|---|---|---|
美容・パーソナルケア・衛生用品 | ・ボディウォッシュと石鹸 ・デオドラント ・リップバームとグロス ・ローション ・軟膏 ・ポマード ・ヘアケア製品 ・化粧品 ・ネイルケア製品 ・日焼け止め剤 |
アルデヒド、ホルムアルデヒド | 架橋剤、変性剤、防腐剤 |
アルキルフェノールエトキシレート類 | 界面活性剤 | ||
アゾ染料、コールタール、鉛、酢酸鉛 | 着色剤、染料、顔料 | ||
フタル酸エステル類 | 乳化剤、可塑剤 | ||
トリクロサン | 抗菌剤 | ||
トルエン | 溶剤 | ||
建築資材 | ・塗料と下塗剤 ・塗料や落書きの剥離剤と洗浄剤 ・ステインとワニス ・接着剤とのり ・コーキング ・シーラント ・屋根のコーティング ・敷物類 ・カーペットパディング ・加工木材やラミネートフローリング ・合板やOSBの床下張り材 ・ビニールフローリング |
臭素化および塩素化有機化合物、有機リン類 | 難燃剤 |
イソシアネート類 | 反応・前駆体 | ||
六価クロム等の金属類 | 染料および顔料 | ||
過フッ素化合物 | 撥水・撥油・防汚 | ||
フタル酸エステル類 | 可塑剤 | ||
ホルムアルデヒド等の揮発性有機化合物(VOC)類 | 溶剤 | ||
家庭・オフィス家具、内装品 | ・寝具 ・布製家具 ・座席とソファ ・カーテン |
臭素化及び塩素化有機化合物、有機リン類 | 難燃剤 |
過フッ素化合物 | 撥水・撥油・防汚 | ||
クリーニング製品 | ・芳香剤 ・浴室洗浄剤 ・カーペット洗浄剤 ・洗剤 ・表面洗浄剤 ・床洗浄剤 ・フロアワックスとワックス剥離剤 ・汎用洗浄剤 ・脱臭剤 ・オーブン洗浄剤 ・磨き剤 ・染み抜き剤 ・窓ガラス用洗剤 |
アルキルフェノールエトキシレート類 | 界面活性剤 |
フッ化水素 | 抗スケーリング剤 | ||
フタル酸エステル類 | 乳化剤 | ||
トリクロサン | 抗菌剤 | ||
ホルムアルデヒド等の揮発性有機化合物(VOC)類 | 溶剤 | ||
衣類 | ・全身衣類 ・ボトムス類 ・パジャマ ・スポーツウェア ・下着 ・トップス類 |
アルキルフェノールエトキシレート類 | 界面活性剤 |
芳香族アミンおよびアゾ染料 | 着色料、顔料、染料 | ||
過フッ化化合物、ホルムアルデヒド | 撥水・撥油・防汚・防しわ | ||
フタル酸エステル類 | 可塑剤 | ||
トリクロサン | 抗菌剤、防腐剤 | ||
釣用品 | ・釣具と釣用おもり | 金属類 | 強度、密度 |
オフィス機器(消耗品) | ・インクカートリッジ ・感熱紙 ・トナーカートリッジ |
アゾ染料 | 着色剤 |
ビスフェノール類 | 現像液 | ||
フタル酸エステル類 | 安定剤、可塑剤 | ||
トルエンなどの揮発性有機化合物(VOC)類 |
今回公表された作業計画には法的拘束力はなく、作業計画に含まれる製品に関わる企業に何らかの義務を課すものではありません。ただし、DTSCは作業計画を公表することによって利害関係者の予測可能性を高め、作業計画に含まれる製品の製造者が自社製品とCoC収載物質について評価・検討することを期待すると述べています。
同様にEUのREACH規則においても各種物質の評価から、その結果に応じた規制化の手続きの状況を公表することで透明性を高め、産業界等の利害関係者への対応を事前に促す取り組みが進められています。
今回の作業計画の公表は、SCPRによる代替評価等の義務化を見越した自社製品の事前確認に資するとともに、子供向け製品や消費者製品に対する他地域の動きを考える際にも参考になるものと考えます。
今回取り上げたカリフォルニア州法であるSCPRのように、消費者製品を対象とした連邦法としてはCPSIAが挙げられますが、同法では原則同法の要件と同一でない州法等を認めていませんが、次の2つの条件を満たす場合には認める可能性を示唆しています。
現在、改訂が検討されているTSCAについても、各州がこれまで取り組んできた化学物質に関する州法への影響が懸念される等の理由から、改訂案に対する反対意見が出され、大きな論点の1つとなっています。
なお、米国では連邦法と州法の内容が相反する場合には、最終的には裁判所の判決によって判断されることになります。
(井上 晋一)
1)https://www.congress.gov/bill/114th-congress/senate-bill/697
2)https://www.congress.gov/bill/114th-congress/senate-bill/725