EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2016.10.14
欧州化学物質庁(ECHA)の「執行情報交換フォーラム(以下、フォーラム」は、加盟国が協力した執行状況の査察を行うプロジェクトを実施しています。6月にCLP規則に関連する2種のパイロットプロジェクトの調査報告書が公表されました。
CLP規則では第35条(2)において、一般消費者に提供される危険有害性を有する化学物質および混合物の包装は、子供の強い好奇心を誘引・喚起したり、消費者の誤解を招く形状や設計にしてはならないとし、また、下記の危険有害性分類に該当する場合には、子供の誤用防止留め具(CRF)の設置や触覚的な危険警告(TWD)の貼付が義務付けられています。
危険有害性分類 | 子供の誤用防止留め具 | 触覚的な危険警告 |
---|---|---|
急性毒性(区分1~3) | 必要 | 必要 |
急性毒性(区分4) | - | 必要 |
特定標的臓器毒性:単回ばく露(区分1) | 必要 | 必要 |
特定標的臓器毒性:単回ばく露(区分2) | - | 必要 |
特定標的臓器毒性:反復ばく露(区分1) | 必要 | 必要 |
特定標的臓器毒性:反復ばく露(区分2) | - | 必要 |
皮膚腐食性(区分1A、1B、1C) | 必要 | 必要 |
呼吸器感作性(区分1) | - | 必要 |
吸引性呼吸器有害性(区分1) | 必要 ※エアロゾル、密閉スプレー容器は除く |
必要 |
変異原性(区分2) | - | 必要 |
発がん性(区分2) | - | 必要 |
生殖毒性(区分2) | - | 必要 |
可燃性ガス(区分1、2) | - | 必要 |
可燃性液体(区分1、2) | - | 必要 |
可燃性固体(区分1、2) | - | 必要 |
この義務の履行状況について、2015年下期に15カ国の加盟国当局によって、一般消費者向けに販売されている配水管やオーブン、窓、トイレの洗浄剤、塗料、接着剤など797製品の調査が実施されました。
調査の結果、230製品でCLP規則に違反していることが判明し、違反理由の内訳は以下のとおりであり、多くの製品で複数項目の不備があったことが指摘されています。これらの違反に対して、多くは助言や企業の自主的対応によって、是正が図られていますが、48製品について販売禁止や市場からの撤退が図られ、また5件で罰金、2件で刑事告訴が行われました。
違反内容 | 製品数 |
---|---|
子供の誤用防止留め具 | 136 |
触覚的な危険警告 | 77 |
ラベル | 51 |
分類 | 15 |
子供の強い好奇心を誘引・喚起する包装 | 7 |
消費者の誤解を招く包装 | 3 |
その他 | 23 |
この結果から、安全な容器要件に関する違反率が高く、容器要件に関連する企業の義務に対する認識が低いことが指摘されており、このため、報告書では、フォーラムに対して将来的により大規模に調査を行うREF(REACH EN FORCE)プロジェクトのテーマとして取り上げるよう勧告しています。
CLP規則では第4条3)において、附属書VIパート3に収載された調和化された分類および表示(CLH)に該当する物質は、CLHに従って分類することが義務付けられ、REACH規則の登録一式文書の一部としてその情報を提出することが求められています。
この義務の履行状況について、2015年6月から2016年1月にかけて5カ国の加盟国当局によって、ECHAがCLHの不備の疑いがあると特定した8件の登録一式文書と登録者についてヒアリング等の調査が実施されました。
調査の結果、4件の登録一式文書でCLHに該当する成分や不純物を一定濃度含むことが示されているにも関わらず、CLHが採用されていないことが判明しました。この原因を登録者に確認したところ、偶発的なミスや物質分析の不正確さ、不純物含有量に関する情報不足などが挙げられていますが、いずれも実際の製品には、CLHに該当する物質は一定濃度未満であったことが示されています。
この結果を受けて、報告書では、登録一式文書における成分や不純物について、信頼性のある情報を提供するよう企業に求めています。
CLP規則附属書VIパート3に収載されているCLHは、加盟国等による提案、意見募集、ECHA専門委員会の検討等を経て、正式に追加・変更されます。そのためECHAでは2016円3月からExcel形式のリストをウェブページ3)でダウンロードできるようにし、定期的に更新を行っています。
これまでの執行フォーラムの取り組みを見てみると、REACH規則の登録やCLP規則の分類、届出など、化学物質・混合物に関する義務のうち主に法規制の求める手続きや書類をテーマとしたプロジェクトが主でした。
しかしながら、今回取り上げた「子供の誤用防止留め具の設置に関するパイロットプロジェクト」では、消費者向けに市場で販売されている製品をピックアップした上で、市場調査が行われました。さらに、大規模な執行調査であるREF(REACH EN FORCE)4)では「制限」をテーマとし、対象物質の制限条件に基づいて、物質、混合物、成形品の市場調査が実施されているものと想定されます。消費者向け製品の市場調査という面では、2015年のRAPEX年次報告書5)でも通知件数のうち、「化学物質に起因するリスク」が最も多くなっていました。
このように、特に消費者向け製品において、化学物質に起因するリスクについて当局の関心が高く、今後も継続して市場調査が実施されていくものと想定されます。
(井上 晋一)