EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2016.10.28
デンマーク環境保護庁(EPA)は、子供向け敷物(以降「ラグ」)に関するリスクアセスメント報告書 (1)を公表しました。 本報告書は全148ページで前文、本文7章、付録4その他の構成となっています。
以下に本報告書の要約と結論(p7-p11)の概略を紹介します。
子供は玩具や化粧品等の色々な製品との皮膚接触や室内空気中の化学物質の吸入等化学物質への暴露機会が多い。子供部屋は寝室や遊び部屋として子供が1日の多くの時間をそこで過ごす事になる。
本報告書では、ラグが繊維の表裏両面共に問題ある化学物質を含む材料で製造されていることに鑑みラグが子供部屋の室内環境に与える影響を検査する。
本プロジェクトは以下の3つの化学品に焦点を当てている。
どのようなVOCsや臭気がラグから放出されるか、健康リスクがあるかどうかを調査することを目的としている。PFASとフタル酸エステルの室内空中への放出およびダスト中の含有量の測定が必要である。在室中の子供達にラグがリスクを呈するかどうかのアセスメントが要求されている。更に、上記の 化学品(VOCs、フタル酸エステルおよびPFAS)がラグのリサイクルに影響するかどうかを評価する。対象製品をEU域外から輸入された製品に絞って調査を行っている。
カーペットおよびそれらの化学的構成品および室内空気の潜在的な影響の調査は過去に実施されていた。カーペットは面積が広いので室内空気に重要な影響を持つと考えられている。加えて、一般に使用前に洗濯されることはないので使用段階で余分に化学品が存在することを意味している。ラグは典型的な大量生産品でEU域外からの輸入が多い。ラグに対しては特定の化学品規制はない。そのため、REACH規則によりフォローされねばならない。EUの成形品(ラグも含まれる)の流通業者は問題の化学物質(SVHC)の0.1wt%超の含有を届ける義務がある。更に、VOC、フタル酸エステルおよびPFASに分類される物質は候補物質リスト(SVHC)およびデンマークの LOUS リスト(List of Undesirable Substances)に収載されている。
初期調査においてラグからのVOCの放出やフタル酸エステル/PFASの含有に対する調査を行い、取得されたデータおよび健康面に関する初期の考察に基づきデンマーク環境保護局と協調して物質に優先順位を与えた。その結果、化学品分析はサブクラスのアルデヒド、カルボン酸および炭化水素(C7-C12、脂肪族および芳香族炭化水素)の範囲内でラグからのフタル酸エステル、フッ素化化合物およびVOCの放出に絞り込むことになった。この結果、特定された90枚の中52枚から特定されたVOCが確認された。上述の選択された化学物質/化学物質クラスに対する子供用ラグの統合的な調査は存在していなかった。
そのため、初期の調査は子供用ラグのデンマークにおける販売状況 (市場調査) 、ラグに使用されている材料および化学品含有に関する以前の調査結果のレビューに的を絞った。
以前の調査ではラグは室内空中に多種類の揮発性成分を放出するとしていた。ラグからのフタル酸エステルおよび揮発性PFASの放出に関する文献はないが、フタル酸エステルおよびPFASは以前にラグからの放出が見つけられており、子供用ラグ中にもあることが予想されていた。
デンマークで販売されている子供用ラグの大部分はEU域外で生産されており、EUのリテーラー経由で流通されている。したがい原産国についての情報を持っており、特定のフタル酸エステルおよびPFASが含まれている候補物質リストに関するSVHC物質含有情報の取得に責任を持っているのはリテーラーである。幾つかの子供用ラグはEU要求を満たしているか、問題物質に対する制限値が閾値内のため品質ラベル (Oeko-Tex(R) , GUT ) が発行されているにも関わらず物質の内容や放出に関する分析証明のような明確な情報を受領していない。(Oeko - Tex (R) , GUTについては、リスクアセスメント報告書 2.7 P32参照)
特定されたラグは子供の年齢によりトドラー(0-2 歳) 、幼年(3-7 歳)および年長(3-7歳)の3グループに分類された。
大部分のラグ(71%)は3-7歳向けで、49%のラグはラテックス、ゴムまたはすべり止めの裏付きのポリアミドで製造されている。また、アクリル製(19%)、ポリプロピレン製(11%)のラグも存在する。
市場調査結果に基づき、臭気、VOCs、フタル酸エステルおよびPFASを試験するため21枚の子供用ラグが選択された。ラグの選択基準は、トドラーや子供に対して訴求される品質ラベルが付いてなく、かつEU域外で製造されているものおよび最も広い範囲の流通業者、材料および材料構成品が含まれるように設定された。ラバーの裏付きのものとそうでないものが購入された。年長者(8-14歳)向けのラグは購入されていない。
ラグの質的な官能評価が実施された。臭気については21枚のラグ中の9枚は容認できるものであった。
臭気についてはゴム、化学、ラグ、サワー、スイート/吐気、腐食/カビ臭、魚臭が指摘された。一日後の放出ではアルデヒド、カルボン酸および炭化水素を含んでいるVOCに関連する多くの臭気があった。新しいラグのスイートケミカル臭と関係のある物質は4-フェニルシクロヘキセンであり、大部分のラグから放出することが分かった。
ラグの化学品分析結果で、すべてのラグからは様々なレベルのVOCを放出していることが分かった。しかし、C1-C4アルデヒド(フォルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロパナールおよびアクロレイン)からの放出はごく低いレベルであった。最も高い濃度で排出されたVOCsは酢酸、脂肪族および芳香族の炭化水素であった。1日後の初期の放出においてCMR有害性に分類されるVOCs(ナフタレン、フェノール、スチレン、トルエン、ジメチルフォルムアミド、ジクロロエチレン、ベンゼン)が確認された。ナフタレンは8枚のラグから放出され、それは最大濃度で放出されるCMR物質であった。1日と28日の間でVOCsの放出は著しく減少した。28日後もセミ揮発性VOCを放出するラグが2枚あった。それは主に炭化水素であった。すべてのラグは4-PCHを含め、アルデヒド、芳香族炭化水素の1日後(Oeko-Tex (R) )および28日後(GUT, Blauer Engel)に対するラベル基準値の閾値以内であった。
ラベルスキームには、カルボン酸に対する制限値は設定されていない。
Oeko-Tex ラベルのついた合成ウール/ジュートとプロピレンの2つのラグは最大濃度の揮発性物質を放出し、VOCsとSVOCs(それぞれTVOCおよびTSVOC)はOeko-Tex(16時間: TVOC 500μg/m3)およびGUT/Blauer Engel(28日: TVOC 100μg/m3 およびTSVOC 30μg /m3)の両方の制限値を超過していた。
1日後の放出において、19枚のラグから少量のフタル酸ジエチル(DEP)が検出された。不揮発性フタル酸エステルDEHP、DBP、DIBPは28日後の放出でSVOCとして確認できなかった。続いてすべてのラグに対するDEHP、DBP、DIBP、BBP、DNOPの含有分析が行われ、ウールラグだけにDBPが少量含まれていた。
21枚のラグすべての繊維表面のトータルフッ素(total-fluorine)が調査された。そのうちポリアミドおよびポリプロピレン繊維材料の5枚のラグはフッ素化合物を含有していた。
それら5枚のラグは特定のPFAS含有に近いと分析された。表面のフッ素含有量は最少であったにも関わらず、1枚のラグは他の4枚のラグよりもPFASの含有量が多かった。5枚のすべてのラグからPFOAが検出された。幾つかのラグにPFOA、PFOS、iso-PFOAおよび4H-ポリフルオロオクタンスルホン酸/6-2フルオロテロマースルホン酸塩(6:2 FTSA) が検出され、C8の化学物質がまだラグに含侵されていることを示している。5枚のラグにはフルオロテロマー(FT-OH)を含むフッ素化合物は含まれていなかった。
あらゆる化学物質クラスに対し選択された暴露シナリオに基づきリスクアセスメントが実行された。分析データに基づく健康リスクアセスメントにおいては、子供部屋でラグを使用するような場合、懸念が生ずることはないと結論づけている。一つのラグでアクロレインおよびアセトアルデヒドが見つかった。これは最初の日に部屋に居る時、呼吸刺激および不快を生ずる可能性がある。Odour panel からの評価では、21枚中12枚のラグからの臭気は容認できないと受け取られている。臭気と健康有害性成分との間には明確な関係性はない。9枚中5枚のラグから放出されたCMRに分類されるVOCの臭気は容認できる臭気である。臭気は室内空気中の快適さ(容認できる空気品質)にとって特に重要で、頭痛や疲労のような他のタイプの不自由を生させるパラメーターである。
ラグのリサイクルにおいて障害と評価されるような量の化学成分は見つからなかった。資源アセスメントの結果、ラグは優先的にラグとしてリサイクルするか可燃性廃棄物としてエネルギー製品として利用することができるとしている。
本調査はデンマーク市場の様々な材料の子供用ラグ(敷物)を広範囲にカバーしている。VOCsと許容できない臭気が見出された。フタレート(DBP)、PFAS、PFOAおよびVOC ジメチルフォルムアミド(DMF)等のLOUSおよびSVHCリストに関する問題物質が子供用ラグで確認された。 そしてまた、LOUSリスト収載のVOCs(フォルムアルデヒド、ヘキサン、フェノール、スチレンおよびトルエン)が特定された。
特定されたVOCsの測定濃度では健康有害性が見出されないとしても、それらは子供部屋の悪臭や室内空気の質の低下を生じさせる。アクロレインはごく少量濃度で呼吸刺激をもたらすが1枚のラグから放出が発見された。アクロレインは揮発性が高く子供用ラグの面積は小さいので短時間後に空気中でアクロレインが見つかりにくいことは確かである。しかし、本プロジェクトで実施された測定によりこれを確認することができなかった。PFASの低含有のラグが5枚、同様にフタル酸エステルの低含有のラグが1枚見つかった。
しかし、物質は子供達にいかなる健康有害性も生ずることはないと考えられる。
(瀧山 森雄)