EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2018.11.02
1986年安全飲用水および有害物質法(プロポジション(Prop65))は、カルフォルニア州の健康安全コード§25249.5~25249.131)として、1986年11月4日に公布され、1987年1月1日に施行されました。規制内容は全9条です。
§25249.5(がん、または生殖毒性を引き起こすことが知れている化学品による飲料水汚染の禁止)
§25249.6(がん、または生殖毒性を引き起こすことが知れている化学品へのばく露前に要求される警告)
§25249.7(施行)
§25249.8(がん、または生殖毒性を引き起こすことが知れている化学品のリスト)
§25249.9(排出禁止からの免除)
§25249.10(警告要件からの免除)
§25249.11(定義)
§25249.12(履行)
§25249.13(既存の権利、義務および罰則の保存)
リストに収載される化学品は、「国際がん研究機関(IARC)によって、ヒトまたは動物の発がん性物質として記載されている物質」「労働規則29 CFR 1910.1200による有害物質」が含まれます。
§25249.6および§25249.8による警告は、§25249.11(定義)により10人未満の従業員を雇用する会社などは適用されません。
下位の施行規則は、カルフォルニア州規則集(California Code of Regulations :CCR)のタイトル27(環境保護)の“1986年安全飲用水および有害物質法(Safe Drinking Water and Toxic Enforcement Act of 1986)”2)に収載されています。
第1条が§25100、第2条が§25200以下第9条が§25900で、条には項(subarticle)や号が小数点で示されている場合3)があります。
カルフォルニア州環境保護庁環境保健有害性評価部(Office of Environmental Health Hazard Assessment:OEHHA)が主管しています。
日本企業の関心が高いProp65の要求事項は、第9条で作成されたリスト(The Proposition 65 list)に収載された物質(約1,000物質)4)について、第7条(がん)および第8条(生殖毒性)に規定するばく露する可能性がある場合は、第6条第2項(§25601~§25607)でばく露の前にその個人に対する警告メッセージ(ばく露前警告)が要求されることです。
リストには、発がん物質の重大なリスクを起こさないレベル(No Significant Risk Level:NSRLs)および生殖毒性を引き起こす化学品の最大許容投与量(Maximum allowable dose level:MADL)が記載されています。この数値がセーフハーバーレベルと言われます。
ばく露前の警告は、「明確で妥当な警告」を与えることなく、発がん性物質と生殖毒性物質ついて、セーフハーバーレベルを超えての意図的なばく露することを規制するものです。ばく露とは、物理的な体表面への接触、吸引、摂取とされています。
警告の義務者は、製品の製造者、生産者、包装業者、輸入業者、供給業者、または販売業者です。また、この義務はLabel(製品上表示)、Labeling(説明書への表示)、棚札表示、やタグへの表示が要求され、この義務はインターネット販売でも要求されます。
なお、ばく露前の警告方法は、2016年8月30日に改正告示5)がされ、2018年8月30日から改正施行されています。
警告表示は、第7条(NO Significant Risk Levels がんに対する重大なリスクを起こさないレベル)で、§25705の記載レベル以下であれば要求されません。§25705では、次のようなばく露レベルが記載されています。
鉛 経口 15μg/日
カドミウム 吸入 0.05μg/日
DEHP 310μg/日
DINP 146μg/日
Prop65では、DEHPおよびDINPにEUと異なり、発がん性を特定しています。
第8条(NO Observable Effect Levels 生殖毒性に対する最大無影響レベル)では、ばく露量の1,000倍が§25805に記載されたレベル未満であれば、警告表示は不要となります。
フタル酸エステルを確認しますと次のとおりです。
DBP 8.7μg/日
BBP 経口 1,200μg/日
DEHP 経口 410μg/日 など
DnOP 経口 2,200μg/日
DIDP 2,200μg/日
企業は、ばく露ががんや先天性障害、生殖障害の重大なリスクを引き起こさない程度に低い場合には、警告を発する必要はありません。ただ、ばく露による重大なリスクの決定は事業者の責任とされています。
第2条(ガイドラインおよび安全使用判定手続き)の§25204(安全使用判定)で、裁判中などの特定条件を除いて、警告表示の免除要求の要件が示されています。
(a)OEHHAは法律の影響を受ける、または影響を受ける可能性がある個人または組織に指針を提供するために、事業活動または将来の事業活動に対する法の規制内容を検討します。
OEHHAによって発行された安全使用決定は、SUDの要請に示された特定の事実に対する法の適用に関する州の最善の判断を表すものです。
(b)SUDの適用外条件(略)
(c)SUDの要請(略)
(d)SUDの手続き
SUDの要求には、手数料1,000ドルが要求されます。さらに要求者は、要求を検討する際に生じた1,000ドルを超えるOEHHA、またはほかの州機関の費用が請求されます。この追加審査は、要求者に金額の見積りが提供されます。要求者がSUDの要求を進めることを選択し、追加審査の支払いに同意した後に行われます。
OEHHAは、要求者が手数料支払いが困難と判断した場合、あるいは公共の利益になると判断した場合には、手数料の一部または全部が免除されます。
FAQ形式で、SUDの手続きについての解説6)がされています。
Q:SUD要求には、どのような情報が含まれていますか?
A:SUD要求には、以下が含まれている必要があります。
Q:OEHHAがSUDの要求と発行を受け入れる可能性の高いデータの種類は?
A:Prop65は、SUDの申請に「SUDが要求されている活動に関連するすべての事実と情報の完全な記述」を含まなければならないことを要求しています。
リストに収載された化学品を含む製品の潜在的安全使用に関する科学的結論を支持するためには、一般に認められた原則に基づいて科学的に有効な試験によって生成されたデータが必要です。成功した過去のSUD要求では、製品分析データ(例えば、製品中のリスト化された化学品の濃度またはレベル)、ばく露データ、および製品使用データ(使用頻度、使用期間、使用される製品の量、用途ごとに)があります。
分析データに対する信頼は、一般的にテストサンプル数を増やすか、実験環境でテストする回数を増やすことによって向上します。提供された情報が、製品の平均的なユーザーを代表するデータも役立ちます。
Q:リストに収載されている化学品のセーフハーバーレベルが存在しない場合、SUD要求を検討することはできますか?
A:セーフハーバーレベルが存在しない場合でも検討します。
関連データの入手可能性および必要とされる分析の複雑さにより、暫定ガイダンス値またはセーフハーバーレベルがない場合に使用できる摂取レベルを特定するほかの手段で検討することがあります。
例えば、がんを引き起こすことが知られている化学品である「結晶性シリカ(呼吸可能なサイズの浮遊粒子)」は、セーフハーバーレベルは採用されていませんが、結晶シリカについてはSUDがすでに発行されています(例えば、ミネラルベースのペットリター、および結晶シリカの唯一の供給源として珪藻土を含む6%以下の結晶シリカを含有する内部フラットラテックス塗料)です。この SUDが検討情報となります。
セーフハーバーレベルが指定されていない場合は、科学文献などから容易に入手可能ながん効力推定値も使用します。これらのデータから、検討対象製品の使用から推定されたばく露レベルと比較して、製品の「安全な使用」を決定します。
過去にOEHHAによって発行されたSUDの例と、現在のSUD活動に関する情報は公開7)されています。
日本の法律は文字によって表記される形で制定される成文法主義ですが、アメリカは裁判所の判例の集積が国法の基幹的部分を構成する判例法主義です。
自社製品が警告表示についてはSUDや専門家の評価によりますが、弁護士による判例を根拠とした対応ができます。
60日間違反通知(警告要件に違反していると民間の関係者から製造業者に申し立てる60日間の予告法的文書)、裁判による和解、裁判外での和解は公開8)されていて、2016年以降は検索可能です。
最近ではDEHPを含有している黒色フロアマットに警告表示がないとして60日前通知が出されています。
司法長官のProp65に関る書簡や和解に関する書簡9)も公開されています。
Prop65はばく露規制で濃度規制でないので、含有濃度が高くてばく露がなければよいのかと気になります。
2017年10月の和解契約10)で、ベッドにDEHP、DINP と DIDPを0.1%以下として警告表示をするとしています。
2018年3月の和解契約11)の中で、血圧計とケースについてDEHPを0.1%以下として、警告表示をするとされています。
0.1%未満の背景は、TSCA、FDAやCPSIAでフタル酸エステルの規制があることと思えます。CPSIA Sec10812)では、以下のフタル酸エステルの0.1%以上の濃度を含むおもちゃ、または育児用品は禁止されています。
このように、Prop65の表示の「妥当な警告」は、他法との整合性も含まれまると解釈できます。
(松浦 徹也)
1)https://www.arb.ca.gov/bluebook/bb08/head/hea_d_20_ch_6_6.htm
2)https://govt.westlaw.com/calregs/Browse/Home/California/CaliforniaCodeofRegulations?guid=I42D79370D45011DEA95CA4428EC25FA0&originationContext=documenttoc&transitionType=Default&contextData=(sc.Default)
3)https://oehha.ca.gov/proposition-65/law/proposition-65-law-and-regulations
4)https://oehha.ca.gov/proposition-65/proposition-65-list
5)https://oehha.ca.gov/media/downloads/crnr/fsoramendments120617.pdf
6)https://oehha.ca.gov/proposition-65/proposition-65-safe-use-determination-sud-process
7)https://oehha.ca.gov/proposition-65/proposition-65-safe-use-determinations-suds
8)https://oag.ca.gov/prop65/annual-settlement-reports
9)https://oag.ca.gov/prop65/ag-letters
10)https://oag.ca.gov/system/files/prop65/settlements/2016-00937S6111.pdf
11)https://oag.ca.gov/system/files/prop65/settlements/2017-02129S6465.pdf
12)https://www.cpsc.gov/s3fs-public/pdfs/blk_pdf_cpsia.pdf