EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2019.03.08
REACH規則やCLP規則、殺生物性製品規則(BPR)などの理解や対応を進める際には、多くの疑問が発生する場合がありますが、その場合には、当局に問合せすることができます。
問合せ先は、各規則を所管するECHAと、各国が設立している「国家ヘルプデスク(National Helpdesks:NHD)」1)があり、それぞれに問合せ者(EU域内企業/EU域外企業)、問合せ内容(法規制内容/認可申請などの手続やITツールに関する事項など)によって、役割分担されています。また、ECHAおよび各NHDのネットワークとして「HelpNet」2)があり、各NHD間の情報共有や回答の整合性を図るとともに、ECHAホームページで提供されているQ&Aの作成などの活動が行われています。
各国のNHDはECHAのホームページに詳細が紹介されており、現在、28のEU加盟国に加え、欧州経済領域(EEA)に参加しているアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーの3カ国の合計31カ国のNHDがHelpNetのメンバーとなっています。また上記国以外にも、EU加盟候補国としてトルコ、セルビア、モンテネグロの3カ国が、第三国としてスイスがオブザーバー参加しています。
このHelpNetの活動成果の一つとして、2019年1月に2017年のNHD活動報告書3)が公表されましたので、今回はその概要を紹介します。
今回公表された活動報告書は、上記のHelpNet参加国のうち、モンテネグロを除く計34カ国の各NHDの2017年1月1日~12月31日までの活動実績をHelpNetが2018年3月~5月にかけて調査した結果を取りまとめたものです。
2017年の1年間では2016年に比べ1万件以上増加し、合計51,831件の問合せが寄せられて、問合せ内容を規制別(REACH、CLP、BPR)に分類するとBPRに関する内容が最も多かったようです。
法規制 | 問合せ件数 |
---|---|
BPR | 20,828件 |
REACH | 15,524件 |
CLP | 13,764件 |
特定できない | 1,715件 |
合計 | 51,831件 |
2017年のREACH規則に関する問合せ数は約15,000件(全体の約30%)と、2016年に比べると約1.5倍に増加しました。これは、2017年が年間1t~100tの製造・輸入量の段階的登録物質の最終登録期限(2018年5月末)の前年にあたったことや、REACH対応に関する認識がEU域内のサプライチェーンで高まっていることなどが要因として考えられます。なお、REACHの第2次登録期限(2013年5月末)の前年である2012年と比較すると若干増加した程度でした。
REACHに関する問合せを分野別に整理すると、トップ10は次の通りでした。最も多く寄せられたのは、やはり2018年5月末の最終登録期限に向けた「登録」に関する内容であり、次いで「SDS」が続いています。2016年と比較すると、登録に関連して「データ共有と共同提出」が新たに加わっていますが、そのほかの項目については、若干の順位変動はあるものの、大きな変化はないことがわかります。
2017年 | 2016年 |
---|---|
|
|
2017年のCLPに関する問合せ数は約14,000件(全体の約27%)と、REACHよりも少し少ない件数ですが、2016年に比べると3つの法規制の中で最も問合せが増加しており、前年比で2倍以上に増えています。この要因としては本コラムでも紹介した2015年6月以前に上市された混合物の再ラベル・再包装の猶予期限が2017年6月1日までであったことがあげられます。
CLPに関する問合せを分野別に整理すると、トップ10は次の通りでした。最も多く寄せられたのは、前述の2015年6月以前に上市された混合物の再ラベル・再包装の猶予期限にも関わる「ラベル」に関する内容であり、次いで「混合物の分類・ラベル」が続いています。2016年と比較すると、本コラムでも以前に法案段階の内容を紹介し、2017年3月に公布されたCLP規則附属書VIII(緊急時における健康対応と予防措置に関する調和化した情報)に関する内容が新たに加わっています。また、関連するCLP規則第45条の内容も上位にあげられており、中には、CLP規則の問合せのうち、3/4が第45条および附属書VIIIであったNHDもあったようです。
2017年 | 2016年 |
---|---|
|
|
2017年のBPRの問合せ数は約20,000件(全体の約40%)と、3つの規則でも最も多くの問合せが寄せられています。これはBPRが施行された2013年9月の翌年である2014年以降同様の傾向です。また2016年に比べると20%程度増加しています。
BPRに関する問合せを分野別に整理すると、トップ10は次の通りでした。最も多く寄せられたのは、旧指令(殺生物性製品指令)で規制対象外であったがBPRによって新たに対象となった殺生物性製品の継続上市を一定期間認めるなどの「移行期間」に関する内容であり、次いで「国内手続き」が続いています。2016年と比較すると、「提出およびITツール」などが新たに加わっています。ITツールに関しては、BPRに関する承認申請等の各種手続きを行うシステムである「R4BP3」4)の新機能などに関する問合せが多かったようです。
2017年 | 2016年 |
---|---|
|
|
このように、EU域内企業であっても、3つの規則を理解し、対応を進めるには、NHDなどを活用している状況が伺えます。また、今回ご紹介したNHD活動報告では、3つの規則においてよく寄せられた問合せが、大まかな分類で示されているのみではありますが、3つの規則を理解・対応する際に気にしておくポイントとして、参考になれば幸いです。
(井上 晋一)
1)NHDリスト
2)HelpNet
3)2017年 NHD活動報告書
4)ECHA R4BP3