EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
調剤と成形品の定義から説明します。調剤とは、「2つまたはそれ以上の物質からなる混合物または溶液」を言います。つまり、調剤は化学反応を伴わずに単に混合されて得られた混合物または溶液ということになります。成形品とは、「1つまたはそれ以上の物質または調剤からなる物体で、製造時に化学組成よりも大きく機能を決定する特定な形状、表面またはデザインを与える対象物」を意味します。
しゅう動部材は、母材の金属(粉)および複数種類の固体潤滑剤などを使用し、焼成、成形などの工程で製造されます。固体潤滑材の粉末は非常に微細で、そのまま複合、焼結をすると、母材と反応して消滅、潤滑特性の向上が望めないケースもありさまざまな工夫が施されています。
成形品の判断基準はGuidance Document(*1)やFAQなどでさまざまなもの例示されていますが、今回のケースでは以下の判断基準が考え方のヒントを与えてくれると思われます。
(1)「化学成分が形状、表面およびデザインよりも機能に関係している」と考えられる場合は調剤、その逆の場合は成形品と判断できる(REACH定義)。
(2)「しゅう動部材」が最終使用の機能を有する場合は成形品と判断できる。
(3)施される処理が切断、プレスなどの軽微な加工の場合は成形品と判断できる。
上記の(1)、(2)、(3)の判断基準を基に、一般的なしゅう動部材について考察してみます。
しゅう動部材製造過程で、複数物質の調合・焼成、そのほかさまざまな工夫の結果、潤滑特性などが改善されます。これは化学成分の効果とも言えると思われます。
しかしながら、それはあくまでしゅう動特性の向上、改善という役割と考えられます。
一方、「形状」という観点から見ますと、しゅう動部材は円筒形など固有の形状をもっていて、それら「形状、表面およびデザイン」はその機能を発揮するにあたり非常に大きな基本的役割を果たすと考えられます。
また、前述の通り、焼成などの形状が著しく変化する処理はしゅう動部材となる前工程で必要とされる処理であって、しゅう動部材に施される処理は軽微な加工にとどまると考えられます。そして、そのことにも関連しますが、しゅう動部材はさらなる重要な処理を必要とせず最終使用の機能を有すると考えられます。よってしゅう動部材は成形品と判断してよいものと考えられます。
上記で示しました、調剤と成形品の境界線は「Guidance on requirements for substances in articles」(*1)の3.3.1で次の指標として整理されています。
(1)その素材はさらに加工される以外の機能があるか
最終使用時の機能をもつ場合は成形品となる一つの指標となる。
(2)その素材の販売目的または顧客の調達目的は化学組成によるのか、形状、表面、デザインなのか
販売または購買目的が形状、表面、デザインであれば成形品となる一つの指標となる。
(3)どの加工工程で、その機能がその形状、表面、デザインにより大きく決定されるのか
切削などの軽加工(light processing)場合は調剤と成形品の遷移点ではない。
(4)その素材の化学組成は次の工程でも類似のままであるか
すべてではないが変化がなければ成形品。
これらを総合的な状況から一般的なしゅう動部材は成形品と判断できると思えます。
ご質問事項に直接的に関与しませんが、しゅう動部材に関連して「意図的放出」という考えを考慮すべき状況もあり得ると思われます。2008年5月に発表された「Guidance on requirements forsubstances in articles」(*1)において、新しい考え方が示されていますので、ご注意ください。詳細は下記に記しましたサイトでご確認ください。
(*1)http://reach.jrc.it/docs/guidance_document/articles_en.htm?time=1218452787