ここが知りたいREACH規則

ここが知りたいREACH規則

EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介

Q
2016年11月18日更新
Q.487 紙に必要な文言を印刷した後、これを箱(成形品)に加工しています。(当社は成形品を提供する川中企業に当たります。)成形品時点で印刷インクの有機溶剤等は揮発し、成形品内には含まれていません。このような場合でも、川下企業への報告義務や輸出時における規制対象となるのでしょうか?

REACH規則では成形品の製造者および輸入者に以下のような義務が課せられており、該当する場合はそれらの義務の履行が求められます。

  1. 成形品に含有する意図的放出物質が年間1tを超えている場合は当該化学 物質の登録をする。
  2. 年間1t超で0.1wt%以上の高懸念物質(SVHC)を含有している場合は当該物質を化学物質庁に届出する。
  3. 年間1t未満であっても、0.1wt%以上の高懸念物質を含有している場合は以下の情報伝達をする。
    • 当該物質名を含む当該成形品を安全に使用するに十分な情報を川下企業に提供する。
    • 消費者から要求があった場合は、45日以内に無償で、当該物質名を含む
      当該成形品を安全に使用するに十分な情報を提供する。

ご質問の内容から考えますと、上記の成形品の製造者、輸入者に対する義務のなかで1.の意図的放出物質の含有は除外していいと判断いたします。 したがい、考慮するポイントは、SVHCの含有に絞られます。

印刷用インクは、顔料、樹脂、溶剤の混合物です。インキ中の溶剤は揮発性の有機化合物で、印刷時および製函時には揮発して箱(成形品)への残留の可能性は考えられません。 しかし、顔料や、樹脂は固化した状態で成形品の箱に残っていますし、段ボール箱の組立工程に使用される貼合糊の残渣等の検討が必要です。

全国段ボール工業組合連合会の「輸送包装ガイダンス~包装材に関わる含有化学物質管理~」(1)には以下のコメントがあります。

段ボール:製函工程
・印刷

  • ― 段ボール印刷用インキの殆どは水性フレキソインキであり、インキについては含有化学物質の確認が必要であるためSDSおよびMSDSplusを入手し確認する。入手が困難な場合は印刷インキ工業会で策定したネガティブリストへの適合状況を参考にして確認する。

段ボール:貼合工程

  • ― 貼合糊により波形に成形した中しんとライナを貼り合せ、段ボールシートとする。
  • ― 貼合糊の固形分はデンプン(多くはコーンスターチ)が主成分で、水酸化ナトリウムおよびREACHの高懸念物質(SVHC)であるホウ砂またはホウ酸が使用されている。
  • ― ホウ酸は貼合糊中では、水酸化ナトリウムと反応してホウ砂となる。
  • ― ホウ砂は架橋反応でデンプンと反応すると考えられるが、固化した貼合糊中にホウ砂として残存しているかは不明である。
  • ― 一般的な組成で調合された貼合糊においてホウ砂がすべて残留していると仮定しても、その含有量は段ボールシートに対しては最大でも0.05wt%程度と見積もられ、0.1wt%を十分に下回ると想定される。
  • ― 但し、貼合糊の組成データに基づいて、最大の含有濃度を確認しておくことを推奨する。

印刷インク中の有機溶剤の残留や貼合糊中のSVHCであるホウ砂の残留については上記のとおりですが、川下企業からの情報要求に備え、顔料や樹脂に含有規制対象となる化学物質が含まれているかどうか等を確認しておかれることをおすすめします。

(1)http://zendanren.or.jp/data/pdf/siryo/jamppdf.pdf

当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。 法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家に判断によるなど最終的な判断は読者の責任で行ってください。

情報提供:一般法人 東京都中小企業診断士協会

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