電子・電気部品に関する欧州の環境規制(RoHS指令)について紹介
2010.02.26
塩ビの正式名称は塩化ビニルポリマーで、ポリ塩化ビニル、PVC(polyvinyl chloride)などとも言われます。最近このPVCを巡ってさまざまな動きがありますが、PVC自体の問題と添加剤の問題に大別されます。
PVCが規制する方向に舵を取らせたのがEUで、2000年に発行されたグリーンペーパー (GREEN PAPER Environmental issues of PVC)です。グリーンペーパーでは、PVCの廃棄段階での燃焼による塩化水素の発生に警鐘を鳴らし、PVC中のカドミウムを指摘していますが、フタル酸エステルについては深く言及していません。
1.PVCの問題
グリーン調達基準でPVC被覆電線や絶縁テープの使用禁止が記載されている例があります。理由としては、つぎの2項目などです。
1)焼却時に発生する塩素ガスなど有害ガスの脱塩処理が必要となり環境とコストに影響する
2)鉛などの添加剤がリサイクルを阻害し埋め立て処分となる
法規制では、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」、「ダイオキシン類対策特別措置法」や都道府県条例(東京では「環境確保条例」)で多くの自治体で廃PVC焼却の抑制がされています。
このような動きの中で、グリーン調達基準に適合させるために。PVCフリー被覆電線だけでなくPVCレス塗料の開発などもされてきています。このような潮流の中で、環境保護団体はホームページで「Apple makes BFR-free and (almost) PVC-free computers」とアップル社コンピュータを評価しています。
PVCは燃焼による塩化水素が課題であり、炉の改善が進みました。(社)プラスチック処理促進協会の調査では「排ガス中の塩化水素濃度は、最近設置された焼却炉では、10ppm以下」となっていると報告しています1)。
塩ビ工業・環境協会では、PVCの用途の多用であること、安全性や焼却時の塩素ガスによる腐食は少ないこと、ダイオキシンへの過剰な認識を是正させる情報を出しています。
日本ビニル工業会は食品包装用塩ビラップの安全性の情報開示を進めています。
2.可塑剤の問題
フタル酸エステルはPVCに柔軟性を与える可塑剤として多用されています。フタル酸エステルはベンゼン環の隣接した2カ所のカルボン酸にアルコールがエステル結合したもので、つぎのような多くの種類があります。
フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)
フタル酸ジイソノニル(DINP)
フタル酸ジイソデシル(DIDP)
フタル酸ジ-n-ブチル(DBP)
フタル酸ジメチル(DMP)
フタル酸ブチルベンジル(BBP)
フタル酸ジエチル(DEP)
フタル酸ジシクロヘキシルDCHP)
フタル酸ジ-n-ヘプチル(DNHP)
フタル酸ジ-n-オクチル(DNOP)
フタル酸ジプロピル(DPRP)
フタル酸ジペンチル(DPP)
フタル酸ジヘキシル(DHP)
フタル酸ジイソブチル(DIBP)
可塑剤に関するリスク評価もさまざまです。
REACH規則のCandidate List(いわゆるSVHC)にはつぎの4物質が生殖毒性物質(カテゴリー2)として収載されています。
フタル酸ジ-n-ブチル(DBP)
フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)(DEHP)
フタル酸ブチルベンジル(BBP)
フタル酸ジイソブチル(DIBP)
このように生殖への影響等を与えるので、環境ホルモンとして規制を迫る動きもありますが、可塑剤工業会では、フタル酸エステルの安全性データやコメントを公表しています。
化学物質の分類はCLP規則やGHSで示されているように、当局ではなく製造者が行いますので、異なった見解が示される場合もあります。
3.法規制の状況
PVC法規制はPVC自体の規制と可塑剤規制の両面で行われています。
日本では、平成12年に可塑剤としてDEHPを含有するPVC製手袋の食品への使用を避けるように通達が出されています2)。
その後も食品衛生法に基づくおもちゃの規格基準の改正によって、厚生労働大臣が指定する乳幼児用のおもちゃのうち、ポリ塩化ビニル製のものに対してDEHPの使用を禁止し、また口に接することを本質とする歯固め、おしゃぶりなどに対しては、DINP関しても使用を禁止しています3)。
EUでは、2005年12月には正式に、おもちゃおよび育児用品について、DEHP、 DBPおよびBBPの使用を禁止し、さらにおもちゃおよび育児用品のうち口に入るものについては、DINP、DIDPおよびDNOPの使用も禁止するという指令が発布されました4)。
台湾やカリフォルニア州でも玩具への特定フタル酸エステルの使用制限があります。
米国向け消費者製品は、CPSIAの適用を受け、新基準がいよいよ2010年2月10日から適用されています。鉛・フタル酸エステルが基準値以上含まれていないことの第三者認証を受けなければならず、消費者製品安全委員会(CPSC)の認定を受けた第三者機関としての試験所による検査および承認が要求されます5)。
日本や韓国でもPVC用の可塑剤、フタル酸エステルが含まれた輸液バックと一部血液バック(補助用バック)に使用禁止がされています。
このように、PVCや可塑剤は食品、医療用具や玩具を中心に法的規制がされてきています。
改正RoHS指令案でもPVCやフタル酸エステル類が2009年12月14日の修正案で制限物質に収載されています。米国の「化学物質管理法改革の基本原則(Essential Principles for Reform of Chemicals Management Legislation)」では、「化学物質に敏感な小児の保護」などのためにTSCAの強化(修正)を示しています。
PVCやフタル酸エステル類の有害性に意見が分かれていますが、潮流としてはPVC自体の制限だけでなくフタル酸エステル類などの可塑剤の制限対象が広がっています。
1)
http://www.vinyl-ass.gr.jp/sf/eco.html
2)
http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1206/h0614-1_13.html
3)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/10/dl/s1004-8g.pdf
4)
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ%3AL%3A2009%3A170%
3A0001%3A0037%3AEN%3APDF
5)
http://www.cpsc.gov/BUSINFO/testlabs.pdf
(松浦 徹也)