電子・電気部品に関する欧州の環境規制(RoHS指令)について紹介
2014.11.21
RoHS(II)指令の対象製品の拡大によりCEマーキングの技術文書の作成の山を迎え、CEマーキング、輸入者の義務あるいは上市の定義などの解釈が改めて論議を呼んでいます。これまで幾度かコラムやFAQでこれらの問題を解説してきましたが、ブルーガイド(「The Blue Guide on the implementation of EU product rules 2014」、以下BG)を改めて読み返して論点を整理してみたいと思います。
RoHS(II)指令はニューアプローチ指令の1つとなりました。BGはニューアプローチ指令の実施ガイドの位置づけで、RoHS(II)指令も要求への対応はBGにより実施することになります。
ニューアプローチ指令の背景を理解しておくことがBGの理解を深めます。歴史的な背景としてニューアプローチ以前のオールドアプローチは、国家当局が技術法令を詳細に定めており、加盟国間での技術的障壁になっていました。
EUの歴史を振り返ると、欧州石炭・鉄鋼共同体〔European Coal and Steel Community (ECSC)〕に始まり、欧州経済共同体〔European Economic Community(EEC)〕、欧州共同体〔European Community(EC)〕、欧州連合〔European Union(EU)〕と変遷しましたが、それぞれの連合体の条約では「内部に境界のない自由、安全及び正義の領域を市民に提供する」という単一市場の設立を目的としています。
ECあるいはEUは独立国の連合体であって、加盟国は独立国であることを認識しておくことが必要です。1992年、EC統合に向けて単一市場の設立のため、当時の12加盟国間の技術的障壁を除くために加盟国全体を抱合する取組みのグローバルアプローチが始まりました。
グローバルアプローチでは、1つの国で合法的に製造または市場に出された製品は、輸出国と輸出先国とが同等の保護レベルであれば域内市場は自由に移動できるという相互承認の仕組みが導入されました。同時に域内全体での措置がない場合は、「健康、安全、消費者保護、環境保護」の強制要求事項を満たす場合などに限定して自国で自由に制定できるとされました。
このことは、加盟国が他国の製品の制限を正当化できるのは強制要求事項への不適合しか根拠にできないということになります。このための国の不適合立証責任のために適合性立証方法として、「健康、安全、消費者保護、環境保護」の必須要求事項に限定されるニューアプローチの立法手法が確立されました。
ニューアプローチの規制手法は以下のようにされます(引用 BG 1.1.3項)。
適合性立証も明確に行う適合性評価がモジュール方式であり、適合性がCEマーキングとなり、市場監視やセーフガード条項を含めたニューアプローチが確立しました。
ニューアプローチ指令(New Approach Directives:複数)は以下などであり、BGの対象です(引用BG 1.5項)。
製品が上市される時点で、すべての利用可能なEU整合法令(ニューアプローチ指令)の規定に適合している場合のみ、利用可能にする、または使用に供することができるとしています。工業製品分野の従来型指令は約700あるので、ニューアプローチ指令は未だ数が少ないのが現状です(引用 BG 1.1項)。
これら指令で規定されている整合規格は、企業・産業総局のホームページで公開されています。
CEマーキングにより適合宣言されている製品について、行政手段により製品の出荷の制限、禁止、市場からの撤去を行うセーフガード条項(Safeguard clause)があります。
セーフガード措置は自由移動を制限するものですから、セーフガード措置を取った加盟国は速やかにEU委員会に正確な理由と動機を示さなくてはならないとされています。
加盟国がセーフガード措置を訴える要件は次です(引用 BG 7.3.5項)。
また、加盟国政府は製品の規格整合性、規格適合性評価手順の有効性、または規格の質について追求できます。このために製造者は適合宣言書(DoC)や技術文書(TD)で適合証明してセーフガード措置に対応することになります。
自由移動と制限、当初の6カ国から文化や価値観の異なる加盟国の拡大や加盟国外からの輸入という微妙なバランスが課題となって揺れる部分もあります。
ニューアプローチ指令には上市日、利用可能日、使用に供する日の3つの日がでています。この違いについては別項で解説します。
なお、ニューアプローチ指令にはREACH規則、ELV指令や廃電池指令が組み込まれていないことに留意することが必要です。
EU整合法令は単一市場の設立を目的としていますので、国境の税関の基準を調和することになりますので、EUだけでなく協定により周辺国に拡大されています(引用BG 2.8.3項 9.2項)。
その他に、相互承認協定(MRAS)によりスイス、適合性評価および受入れに関する協定(ACAAS)によりアルジェリアやエジプト、イスラエルなどと相互承認され、さらに拡大もしています。
EUおよび周辺国が同一の評価基準で運用されていますので、市場監視情報も共有されます。
EU整合法令の適用は以下の状況で適用されます。
法令が適用される前に製造され第三国から輸入される使用済、中古製品も適用されます。
また、物流在庫に関する適合義務に言及していることが注目されます。RoHS(II)指令のFAQ Q2.3「第2条2項の恩恵を受けた製品は、2019年7月22日までは完全に市場にアクセスできるということを意味します。しかしながら、その期日より後は、これらの製品はすべて、たとえそれがその期日より前に上市されていた場合であっても、市場に残ることはできません」との関連です。
RoHS(II)指令や玩具安全指令などでは、「加盟国は規則765/2008/ECの第15条から29条に従い市場監視を実行しなければならない」と規定しています。
規則765/2008/ECの第16条は、「EU整合法令が適用される製品が、意図された目的あるいは合理的に予見できる条件で使用、適切に設置、保守されていれるときに、使用者の健康と安全を脅かす、または、EU整合法令の規定に適合していない場合は、それらの製品の回収されること、製品の利用の禁止や制限すること、および、そのことを公衆、EU委員会、他の加盟国に通知する(要旨)」とされています。
一般製品安全指令(GPSD 2001/95/EC)は、EU整合法令がカバーしない消費者用製品を対象として、生産者が消費者に対して安全な製品のみ上市させる義務を課しています。
加盟国に対しては、安全な製品のみを流通させる義務が順守されているかをモニタリングする義務を課し、生産者、輸入者や流通業者に対して危険な製品の流通の禁止、引き上げ、消費者への警告、販売済製品の回収を命じることが要求されています。
この警告システムとしてRAPEXがあります。RAPEXは前記の非EU国に対しても通知されます。
市場監視はEU整合法令による監視とGPSDによる監視が行われることになります。765/2008/ECの監視は、ニューアプローチ指令だけでなく、バイオサイド規則(規則 528/2008)も対象になっています。
このように市場監視が複雑であることは否めず、安全な製品が流通することでの消費者にとっての信頼性、また製造者にとってわかりやすく統一されたルールにより、コンプライアンスにかかる時間・費用を削除することが求められるところです。
2013年、EU委員会は、製品安全性と市場監視強化に関する包括対策パッケージを採択しました。
この動きについては、2014年6月6日付けコラムで若干の解説をしていますので、ご参照ください。
今回はBGの背景やニューアプローチ指令の仕組みを中心に解説しました。次回は輸入と上市日の考え方など個別の論点について解説します。
(松浦徹也)