電子・電気部品に関する欧州の環境規制(RoHS指令)について紹介
2016.10.21
2016年10月1日に"the E-Waste(Management)Rules, 2016"(インドRoHS(2016)と略記)1)が、"the E-Waste(Management and Handling)Rules, 2011"2)に置き換えて施行されました。
インドRoHS(2016)は、6章24条、別表4、様式2の構成で、29ページのコンパクトな通達です。インドRoHS(2016)は、EU RoHS(II)指令に適合させていれば、よいといわれています。これは間違いではないのですが、微妙な差異があります。この辺りを整理してみます。
インドの法体制は、法律(Act:国会で承認)、規則(Regulation:法による省の法実施のために定める)、通達(Notification:法による省の法実施のために定める)で、さらにガイドライン(Guideline:地方の行政機関の代行執行をサポートするガイド)となっています。
インドRoHS(2016)は、環境森林気候変動省3)の通達で、上位法は環境保護法4)、同規則5)です。インドRoHS(2011)では、ガイドライン(Implementation of E-waste Rules, 2011)6)が発行されていました。インドRoHS(2016)のガイドラインは現時点では発行されていませんが、随時発行するとされ、ガイドラインによる手続きに従うことが要求されています(第23条)。
インドRoHS(2016)は、4つのパートに分かれています。
(1)序
第I章(序文)
(2)WEEE(Waste Electronic and Electrical Equipment)関連
第II章(責任) 第III章(WEEEの管理に関する認可申請及び付与手続き)
第IV章(WEEEの保管手続き)
(3)RoHS関連
第V章(電気電子機器、コンポーネント、部品またはスペアの製造での有害物質の使用削減)
(4)その他
第VI章(雑則) 別表I~別表IV 様式
「ガイドライン」によれば、世界の廃電気電子機器(E-Waste)の発生量は30~80百万トンで、インドでは2012年に0.8百万トン発生と推測されています。
廃電気電子機器には、金、銀、銅などの価値のある材料があり、同時に、重金属(カドミウム、水銀や鉛など)、PCBや有害物質が存在しています。リカバリーの重要性と環境に配慮した収集、リサイクルや処理の環境上適正な管理が必要であるとしています。
「平成23 年度 海外の環境汚染・環境規制・環境産業の動向に関する調査 報告書(三菱総合研究所)7)」によりますと、「インドには大量の電子廃棄物が不法に輸入されており、国内で発生する全電子廃棄物の約95%が、有用鉱物を回収する目的で都市部の郊外にある不法な施設に送られている。」と報告しています。
このような廃電気電子機器の増加、リサイクルの重要性、有害物質の含有、不適切な処理が、インドRoHS(2011)の背景で、これはインドRoHS(2016)により、さらに対応が明確化されたといえます。
製造者(manufacturer)の責任は第5条、生産者(producer)の責任は第6条に規定されています。用語の定義(第3条)では、次のように定義されています。(部分要約)
(1)製造者:「会社法(2013年法律第18号)による会社」、「工場法(1948年法律63号)による工場」、「中小企業(Micro, Small and Medium Enterprises)開発法による中小企業」で、電気電子機器の製造設備を有する人または組織
(2)生産者:販売者、小売業者、オンライン販売者などで、「自社ブランドの電気電子機器、コンポーネント、消耗品、部品、スペアの製造、販売者」、「他の製造者またはサプライヤーが生産したものを販売する者」「輸入電気電子機器、コンポーネント、消耗品、部品、スペアの販売者」
製造者の責任は、製造工程で発生した廃電気電子機器の収集、リサイクルまた処分しなくてはならないと規定されています。
生産者の責任は、次に示す別表1のカテゴリの電気電子機器が対象となります。
i. IT および通信機器(ITEW)
ITEW1. 集中データ処理:メインフレーム、ミニコンピュータ
ITEW2. パソコン:個人用コンピュータ(中央処理ユニットおよび入力・出力デバイス)
ITEW3. パソコン:ラップトップ・コンピュータ(中央処理ユニットおよび入力・出力デバイス)
ITEW4. パソコン:ノートブック・コンピュータ
ITEW5. パソコン:ノートパッド・コンピュータ(プリンタ、カートリッジを含む)
ITEW6. コピー機
ITEW7. 電気電子タイプライタ
ITEW8. ユーザー端末およびシステム
ITEW9. ファックス
ITEW10. テレックス
ITEW11. 電話
ITEW12. 公衆電話
ITEW13. コードレス電話
ITEW14. 携帯電話
ITEW15. 応答システム
ii.消費者向け電気電子製品(CEEW)
CEEW1. テレビセット(液晶およびLED のものを含む)
CEEW2. 冷蔵庫
CEEW3. 洗濯機
CEEW4. エアコン(中央空調機器は除く)
CEEW5. 蛍光灯およびその他の水銀含有ランプ
インドRoHS(2016)には、2011年版になかった「蛍光灯およびその他の水銀含有ランプ(CEEW5)」が追加されました。
生産者の責任は、拡大生産者責任(EPR: Extended Producers Responsibility)が詳細に要求されます。EPR事項は(a)~(g)まであり、様式1で施行日(2016年10月1日)から90日以内に、中央公害管理委員会に対し、EPR認可の申請を行う必要があります。
(a)2016年10月1日以降のヒストリカル廃棄物(別表Iの電気電子機の廃電気電子機器で2016年10月1日以降に存在するもの)を含めて廃電気電子機器の収集と認可された解体業者またはリサイクル業者に引き渡しがあります。
なお、水銀含有ランプの場合は、リサイクル業者が利用できない場合は、収集センター(生産者が個別または共同で設立する廃電気電子機器の収集センターまたは収集ポイント)から処理、保管、処分までの経路を管理することになります。
(e)連絡先情報の提供:廃電気電子機の返還を促すため、自社のウェブサイトや製品ユーザー向け文書を通じて、消費者または大口消費者に対して、住所、Eメールアドレス、通話料無料の電話番号またはヘルプラインの電話番号を提供します。
(f)メディア、刊行物、広告、ポスター、またはその他のコミュニケーション手段および機器に添付するユーザー向け文書で次の事項に対する認識を喚起しなくてはなりません。
(g)生産者は、拡大生産者責任を個別に履行するか、共同で履行するかを選択しなくてはならなく、個別に履行する場合、生産者は独自の収集センターを設立するか、テイクバックシステムを構築するか、またはその両方を実施します。
なお、電気電子機器の輸入は、拡大生産者責任の認可を受けた生産者以外は認められません。
その他、廃電気電子機器に関連する許認可事項は、図のように多々要求されています。
インドには29の州と連邦政府が直接統治する7つの連邦直轄領があります。
2015年5月3日の時点で、EPR認可8)は、11州で128の生産者に与えられ、19州で134の収集センターが設立されています。
インドRoHS(2016)は、背景に記載しましたが、廃電気電子機器対応が狙いで、EU WEEE(II)指令より具体的な要求が多いようです。
第V章(電気電子機器およびそのコンポーネントまたは消耗品または部品またはスペアの製造における有害物質の使用削減)第16条で有害物質の使用制限が規定されています。
(1)対象製品
別表1の電気電子機器(IT および通信機器(ITEW)及び消費者向け電気電子製品(CEEW))が対象です。
WEEE関連と同様に最終電気電子機器だけでなく、次が含まれます。
(2)特定有害物質
特定有害物質はEU RoHS(II)指令と同じ、鉛、水銀、カドミウム、6価クロム、ポリ臭化ビフェニルおよびポリ臭化ジフェニルエーテルで、最大許容濃度も鉛、水銀、6価クロム、ポリ臭化ビフェニルおよびポリ臭化ジフェニルエーテルの均質材料については0.1重量%、カドミウムの均質材料については0.01重量%を保証することが要求されます。
中央公害管理委員会に対し、EPR認可の申請を行う生産者は、特定有害物質非含有に関する情報を提供しなくてはなりません。
但し、防衛およびその他これに類似する戦略的用途に使用される電気電子機器の製造および供給には適用されません。
(3)適用免除
別表IIに掲載される39項目の用途においては、その適用を免除することができますが、別表IIに規定される有害物質の上限濃度を順守することを保証することが要求されます。
39項目はEU RoHS(II)指令と同じですが、対象製品に「蛍光灯およびその他の水銀含有ランプ」が追加され、有害物質の上限濃度に差異があります。インドも批准している「水銀に関する水俣条約(Minamata Convention on Mercury)」の影響と思われます。
照明器具関連での除外を確認しました。
インドRoHS(2016) | EU RoHS(II)指令 | |
---|---|---|
1 | 電球(コンパクト形)蛍光ランプ中の、以下の値を超えない水銀(1バーナー(蛍光灯本体)につき) | |
1(a) | 30W未満の一般照明用途:2.5mg | 5mg |
1(b) | 30W以上50W未満の一般照明用途:3.5mg | 5mg |
1(c) | 50W以上150W未満の一般照明用途:5mg | 5mg |
1(d) | 150W以上の一般照明用途:15mg | 15mg |
1(e) | 円形または四角形の形状の一般照明用途で、管径が17mm以下のもの:7mg | 基準値なし |
1(f) | 特殊用途:5mg | 5mg |
1(g) | なし | 30W以下一般照明で寿命が20,000以上:3.5mg |
2(a) | 一般照明用途の直管型蛍光ランプ中の、以下の値を超えない水銀(1ランプにつき) | 同左 |
2(a)(1) | 通常寿命のtri-band phosphorで、管径が9mm未満のもの(例:T2):4mg | 5mg |
2(a)(2) | 通常寿命のtri-band phosphorで、管径が9mm以上、17mm以下のもの(例:T5):3mg | 5mg |
2(a)(3) | 通常寿命のtri-band phosphorで、管径が17mmを超え、28mm以下のもの(例:T8):3.5mg | 5mg |
2(a)(4) | 通常寿命のtri-band phosphorで、管径が28mmを超えるもの(例:T12):3.5mg | 5mg |
2(a)(5) | 長寿命(25,000時間以上)のtri-band phosphor:5mg | 8mg |
2(b) | その他の蛍光ランプ中の、以下の値を超えない水銀(1ランプにつき) | 同左 |
2(b)(1) | 直管型halophosphateランプで、管径が28mmを超えるもの(例:T10およびT12):10mg | Pack9 リストから削除 |
2(b)(2) | 非直管型halophosphateランプ(すべての管径のもの):15mg | Pack9 リストから削除 |
2(b)(3) | 非直管型tri-band phosphorランプで、管径が17mmを超えるもの(例:T9):15mg | 基準値なし |
2(b)(4) | その他一般照明用途で、特殊用途のランプ(例:誘導ランプ) 15mg/1灯 | Pack9で4分類 |
EU RoHS(II)指令の除外の見直しのPack9で、除外申請が出ていないものも記述されています。Pack9の決定が影響を与える可能性はあります。
(4)適用外
2014年5月1日より前に上市した電気電子機器に必要なコンポーネントまたは消耗品または部品またはスペアについては適用がされません。
(5)情報開示
生産者は、製品ユーザー向け文書の中で、電気電子機器およびそのコンポーネントまたは消耗品または部品またはスペアの構成成分についての情報を詳しく提供するとともに、有害物質の使用削減条項に適合しているとの宣言を記載しなくてはなりません。
「構成成分についての情報を詳しく提供する」の対応は、例えば、中国RoHS(II)管理規則・SJ/T11364の要求する「○×表」程度なのか、EU RoHS(II)指令のBOMなのかは明確ではありません。
(6)市場監視
中央公害管理委員会(CPCB)は、有害物質の使用削減条項への適合について監視、確認するため、上市された電気電子機器を対象として無作為のサンプリング検査を実施します。このサンプリングおよび検査にかかる費用は該当する生産者が負担します。
製品が有害物質の使用削減条項に適合していなかった場合、その製品の生産者は製品を適合させるための是正措置を執り、かつ中央公害管理委員会のガイドラインに従って、妥当な期間内に市場から当該製品を回収またはリコールしなくてはなりません。
インドRoHS(2016)は、EU WEEE(II)指令、RoHS(II)指令の要求事項と一致していますが、順法の確証方法などが異なります。
インドRoHS(2016)をしっかり読み込んで、対応をすることが肝要に思えます。
1)GOVERNMENT OF INDIA MINISTRY OF ENVIRONMENT, FOREST AND CLIMATE CHANGE
2)MINISTRY OF ENVIRONMENT AND FORESTS, NOTIFICATION
3)Ministry of Environment, Forest and Climate Change, Government of India
4)THE ENVIRONMENT (PROTECTION) ACT, 1986
5)THE ENVIRONMENT (PROTECTION) RULES, 1986
6)Implementation of E-Waste Rules 2011
7)平成23年度 海外の環境汚染・環境規制・環境産業の動向に関する調査報告書
8)Introduction, Hazardous Substances Management(HSM), Government of India
(松浦 徹也)