EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2014.07.25
REACH規則の76条(f)に基づき、REACH規則の執行権限を有する加盟国当局のネットワークを調整し作業を行うために、欧州化学物質庁(ECHA)に「執行情報交換フォーラム」が設置されています。同フォーラムでは、企業のREACH規則やCLP規則の対応状況を確認するための執行プロジェクトが実施されています。
執行プロジェクトは、特定のテーマに基づきREACH規則やCLP規則に対する企業の順守調査が行われ、REACH-EN-FORCE-1(2010年6月18日付けコラム参照)、REACH-EN-FORCE-2(2013年9月27日付けコラム参照)等がこれまでに実施・報告されており、現在はREACH-EN-FORCE-3(REF-3)が実施されています。
REF-3では、主として製造者や輸入者、唯一の代理人に対する登録義務について税関当局と連携した調査が実施されており、フェーズ1が2013年に完了し、フェーズ2が2014年2月からスタートしています。
2013年2月から8月に実施されたREF-3のフェーズ1に関する最終報告書が2014年7月に公表されましたので、その概要を紹介します。
REF-3フェーズ1には28加盟国が参加し、528企業、3,065物質の登録義務に対する調査が実施されています。今回の調査対象企業の規模およびサプライチェーン上の役割は次の表のようになっています。今回は特に税関と連携した調査であるため、「輸入者」の順守状況に焦点を当てていると言えます。
ミクロ | 小規模 | 中規模 | 大規模 | 不明 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|
調査企業数 | 110社 | 115社 | 128社 | 167社 | 8社 | 528社 |
製造者(%) | 11% | 14% | 26% | 47% | 2% | 100% |
輸入者(%) | 19% | 23% | 24% | 33% | 1% | 100% |
唯一の代理人(%) | 21% | 18% | 29% | 30% | 2% | 100% |
調査の結果、528社中75社、3,065物質中143物質で登録義務の不順守が指摘されました。次に、不順守の状況を少し詳しく見ていきます。
まず、企業規模別にみると、企業規模が大きくなるほど不順守割合は低くなっていることがわかります。
ミクロ | 小規模 | 中規模 | 大規模 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|
調査企業数 | 110社 | 115社 | 128社 | 167社 | 516社※ |
不順守企業数 | 20社 | 21社 | 20社 | 10社 | 71社 |
不順守割合 | 18% | 18% | 16% | 6% | 14% |
一方、報告書では調査対象企業をREACH規則が定める役割として、製造者、輸入者、唯一の代理人に分け、各役割をさらに1つの役割のみに該当する「専業」企業と、複数の役割を有する「兼業」企業に分類しています。役割別に見ると、唯一の代理人(専業)が最も不順守割合が高く、また複数の役割を兼業する企業よりも、専業の企業で不順守割合が高くなっていることが指摘されています。
REACH規則における役割 | 不順守企業割合 (N=75) |
---|---|
製造者(専業) | 8% |
製造者(兼業) | 7% |
輸入者(専業) | 18% |
輸入者(兼業) | 15% |
唯一の代理人(専業) | 43% |
唯一の代理人(兼業) | 25% |
不順守が指摘された、75社、143物質の不順守の理由として最も多かったのは、「未登録」であり、次に「唯一の代理人に関する事項」の割合が高くなっています。これは不順守の企業割合、物質割合ともに同様の傾向が示されています。
不順守の理由 | 不順守企業割合 (N=75) |
不順守物質割合 (N=143) |
---|---|---|
物質の特定 | 7% | 12% |
未登録 | 76% | 64% |
トン数帯の誤り | 4% | 4% |
各役割におけるREACH規則義務違反 | 9% | 11% |
唯一の代理人の要件違反、義務違反、選任違反 | 20% | 26% |
このような調査結果を踏まえ報告書では、唯一の代理人への対応や、REACH規則の登録義務に精通していない輸入者や中小企業等への対応が必要であることが提言されています。
また、2014年2月から開始されているREF-3のフェーズ2では、特に「唯一の代理人」に対する調査に焦点をあてて実施されています。
REF-3では唯一の代理人に対する課題が指摘されていますが、唯一の代理人業務を行う企業で構成される業界団体の「唯一の代理人組織(ORO)」は5月に「唯一の代理人業務に関するベストプラクティスガイド(BPG)」を公表しています。
OROはECHAのガイダンス文書が不足しているため、唯一の代理人業務を行う企業はもとより、関連するEU域外の製造者や輸入者、当局の検査官も要件が不明確な状況であるとしており、公表したBPGをデファクトスタンダードとして、関係者間で認識の統一を図っていく意向です。
(井上 晋一)