ここが知りたいREACH規則

ここが知りたいREACH規則

EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介

2017.01.13

第16次SVHCの決定等、REACH規則の物質追加に関する動き

ご承知のとおり、REACH規則では、認可対象候補物質リスト(Candidate List)や附属書XIV(認可対象物質リスト)、附属書XVII(制限対象物質リスト)といった各種リストに収載された物質について、各種の義務を課しています。
 SVHCについては、例年6月と12月に物質追加が行われており、2016年12月にも第16次のSVHCとして4物質の追加が加盟国で合意されました。このSVHCへの物質追加を中心に、認可・制限の最近の動きを整理します。

1.第16次SVHCの決定

以前に本コラムでご紹介したとおり、2016年9月に第16次SVHCとして6物質が提案されていましたが、2016年12月に開催された加盟国委員会(MSC)で次の4物質については、全会一致で追加が合意されたことが発表1)されました。
 なお、これまではMSC決定後、数日中に認可対象候補物質リスト(Candidate List)に収載されていましたが、今回はスケジュールの関係で、2017年1月に正式に追加される予定となっており、正式追加の時点から、届出や情報伝達といったSVHCに関連する義務が発生することになります。

物質名(英名) 物質名(和名) CAS番号
4,4'-isopropylidenediphenol (bisphenol A) 4,4'-プロパン-2,2-ジイルジフェノール(ビスフェノールA) 80-05-7
4-Heptylphenol, branched and linear [substances with a linear and/or branched alkyl chain with a carbon number of 7 covalently bound predominantly in position 4 to phenol, covering also UVCB- and well-defined substances which include any of the individual isomers or a combination thereof] 4-ヘプチルフェノール、分岐および直鎖
Nonadecafluorodecanoic acid (PFDA) and its sodium and ammonium salts ナデカフルオロデカン酸、ノナデカフルオロデカン酸アンモニウム、ノナデカフルオロデカン酸ナトリウム 3108-42-7
335-76-2
3830-45-3
p-(1,1-dimethylpropyl)phenol 4-tert-ペンチルフェノール 80-46-6

一方、残りの2物質(4-ターシャリ-ブチルフェノール、ベンゼン-1,2,4-トリカルボン酸1,2-無水物)については、加盟国の多くは提案に同意したものの、一部加盟国が異なる意見を示したため、全会一致での合意には至りませんでした。

2.附属書XIVへの物質追加

認可対象候補物質(Candidate List)に収載された物質は、ECHAによる附属書XIV(認可対象物質)への追加勧告の後、欧州委員会等での検討を経て附属書XIVに収載されることになります。
 まず、ECHAによる追加勧告については、2016年11月に9物質を認可対象物質とする第7次勧告2)を発表しました。2015年11月に11物質を対象とした勧告案が公表 され意見募集が行われ、その結果2物質については第7次勧告からは外されました。
 一方、最終的な附属書XIVの改正については、第4次勧告を反映した2014年8月の改正以降、改正されず、NGO等から手続きの遅れを指摘する声が挙げられていました。第5次勧告および第6次勧告の対象となっていた12物質を附属書XIVに追加する改正案が2016年9月にWTOに通知 3)されました。通知文によると2017年5月頃に採択される見込みとなっています。


3.附属書XVIIへの物質追加

第16次SVHCとして2017年1月に正式追加される予定の4物質にビスフェノールA(BPA)がありますが、2016年12月に附属書XVIIが改正 4)され、エントリー66としてBPAが追加されました。これにより、0.02wt%以上BPAを含有する感熱紙の上市が2020年1月2日から禁止されることになりました。これにより、BPAは用途等を限定しないSVHCへの追加と用途を感熱紙に限定した附属書XVIIへの追加がほぼ同時に実施されたことになります。REACH規則の第58条7項では、「あらゆる用途がREACH規則の制限または他法規制で禁止されている物質は附属書XIVに収載しない」ことが定められていますが、今回の附属書XVIIでの制限対象は感熱紙に限定したものであるため、SVHCへの収載を機に、全用途を対象とした附属書XIVへの収載が今後検討されるものと想定されます。
 また、2016年10月には、メタノールとペルフルオロオクタン酸(PFOA)類を新たに追加する附属書XVIIの改正案がWTOに通知5)6)されました。メタノールについては、メタノールを0.6wt%超含有する一般消費者向けのフロントガラス洗浄剤または除霜剤、変性アルコールの上市を制限する内容となっており、2017年前半に採択した上で、1年後から制限が適用される予定となっています。一方、PFOAについては、PFOAを25ppb超含有する、またはPFOA関連物質を合計1,000ppb超含有する混合物や成形品の製造時使用および上市を制限する内容となっています。なお、2017年前半に採択した上で、原則3年後から制限が適用される予定ですが、印刷インキや消火剤、半導体エッチング工程等の一部用途については適用開始時期を遅らせる形となっています。

このようにREACH規則では、物質の有害性やその使用状況や管理状況を踏まえたリスクに基づき、順次対象物質が追加されていくため、常に変化していく法規制であると言えます。そのため、定期的に法規制物質追加の状況を確認するとともに、自社製品への影響を判断することが求められることから、企業への負荷が増大する一つの要因であると言えます。
 今後も管理すべき物質は増加することは間違いないことから、都度都度の対応ではなく、個々の変化に柔軟に対応できる効率的かつ効果的な仕組みが必要であると考えます。

(井上 晋一)

当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。 法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家に判断によるなど最終的な判断は読者の責任で行ってください。

情報提供:一般法人 東京都中小企業診断士協会

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