EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介
2018.09.28
REACH規則の執行権限を有する加盟国当局が連携して執行状況の調査を行う「執行情報交換フォーラム(以下、フォーラム)」は、「混合物のインターネット販売」のCLP規則の順守をテーマとしたパイロットプロジェクトの最終報告書を4月に公表1)しました。
今回はこの調査結果について紹介します。
CLP規則は、化学品の分類・表示・包装について定めた規制ですが、第48条2項によって、危険有害性に分類された混合物等で一般公衆が事前にラベル表示を見ずに購入契約を締結する可能性がある広告については、ラベル表示に記載された危険有害性の種類に言及しなければならないことが定められています。つまり、インターネット販売など、化学品の容器を確認できない場合には、販売サイトで危険有害性の種別を明示しなければなりません。
今回のパイロットプロジェクトでは、インターネットで販売される混合物のオンライン広告に関するCLP規則第48条2項の順守状況が、2017年1月~8月にかけて調査されました。調査には、15加盟国が参加し、インターネット販売されている1,314種の混合物が調査されました。調査対象となった一般公衆向けの混合物は次のような製品です。
製品群 | 製品例 | 製品数 |
---|---|---|
家庭用品 | 洗剤、トイレクリーナーなど | 496製品 |
建設用品 | 塗料、コーティング剤など | 219製品 |
車用品 | 洗浄剤、コーティング剤など | 184製品 |
ホビー用品 | 接着剤、溶剤など | 157製品 |
園芸用品 | 植物保護剤、殺生物剤など | 122製品 |
その他 | 水処理剤、靴用品など | 136製品 |
調査の結果、次の表のとおり、1,083製品(全体の82.4%)で、危険有害性情報の記載に関する違反が指摘されています。違反した製品の8割以上を占める最も多い違反内容は、危険有害性情報がまったく掲載されずに販売されている事例(902件)でした。
一方、順守が確認できた210製品では、製品説明や製品画像、またはその両者で危険有害性情報が提供されていました。
違反内容 | 違反件数※ | 割合(N=1,083) |
---|---|---|
危険有害性情報の未掲載 | 902 | 83.3% |
危険有害性情報の一部不備 | 55 | 5.1% |
危険有害性情報の記載言語の不備 | 98 | 9.0% |
その他 | 172 | 15.9% |
※複数該当あり
なお、加盟国当局は、違反製品の販売者に対して、多くは口頭や書面による注意や行政命令といった措置が講じていますが、280社に対しては罰金が科され、また4社については、刑事罰などの対応が図られています。
調査の結果、かなり高い違反割合が示されたことから、報告書では各関係機関に対して次のような改善提案が示されています。
関係機関 | 改善提案内容 |
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執行フォーラム |
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加盟国当局および調査官 |
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産業界 |
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欧州委員会 |
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この結果を受けて、執行フォーラムは6月に2020年に調査を実施する予定のREF-8のテーマとして「物質・混合物・成形品のインターネット販売」を取りあげることを決定2)しました。まだ、調査内容の詳細は決定されていませんが、インターネットで販売されている製品について、今回調査されたCLP規則第48条2項やラベル表示、REACH規則附属書XVIIの制限などの順守状況が対象になるものと想定されています。
日本では職場で使用される化学品については、ラベル表示を義務付けていますが、CLP規則では、職場に加えて、一般消費者向けの化学品も、ラベル表示が義務付けられています。これにより、消費者に対して安全な取扱いに関する注意喚起を行うとともに、消費者の購買決定に関わる一つの情報として活用することができます。
一方、成形品の場合を考えると、消費者の購買決定を行うために、CL物質の情報を活用することとなります。成形品中のCL物質については、ECHAによる新規データベースの構築やドイツなど加盟国による消費者がスマートフォンなどによってCLS含有情報を確認することができる仕組みを構築する「AskREACH」プロジェクトなど、消費者にCLの情報を届けるための取組みが強化されている状況です。
また、2017年末~2018年初にかけて実施された「成形品中のCL物質」に関するパイロットプロジェクトの報告書も近々公表されるものと思われます。
成形品について言えば、日本企業にとっては、REACH規則第33条に基づき、自社がEUに輸出する成形品中のCL物質情報を把握し、輸入者に情報伝達していれば、新たなデータベース構築などの取り組みによって直接影響を受けるものではないものと想定されますが、EU域内の輸入者などからの情報提供要請は強まっていくものと想定されます。
1)ECHA ニュースリリース(2018年4月23日)
2)ECHA ニュースリリース(2018年6月25日)
(井上 晋一)