電子・電気部品に関する欧州の環境規制(RoHS指令)について紹介
2014.06.27
RoHS指令の第6条の規定に基づき、附属書IIに収載された制限対象物質の見直しについて、欧州委員会がオーストリア環境庁に委託して実施された調査の最終報告書が2月28日に公表されたことは3月20日付けコラムで取り上げられたとおりです。
その後、欧州委員会は調査の委託先をOeko-Institutに変更し、オーストリア環境庁による調査結果で特定された17の優先対象物質に関する定量的データの収集やステークホルダーからの意見募集を行う調査を行い、同調査の最終報告書が6月10日に公表されました。
今回は両調査による優先順位付けについて紹介します。
1.オーストリア環境庁による優先順位付け
オーストリア環境庁による優先順位付けは次の4つの基準で行われ、該当する基準の組合せによって6段階に優先順位付けしています。
優先順位 | 優先順位付けの根拠 | 物質名 |
---|---|---|
第1優先 | Iの優先度が「高」で、かつII~IVすべてに該当 | 2,3-ジブロモ-1-プロパノール |
ジブロモネオペンチルグリコール | ||
りん酸トリス(2-クロロエチル) | ||
第2優先 | Iの優先度が「中」で、かつII~IVすべてに該当 | 三酸化アンチモン |
フタル酸ジエチル | ||
テトラブロモビスフェノールA | ||
中鎖塩素化パラフィン | ||
第3優先 | Iの優先度が「低」で、かつII~IVすべてに該当 | ポリ塩化ビニル |
第4優先 | Iの優先度が「高」で、かつII~IVのうち2つに該当 | ベリリウム金属および合金 |
酸化ベリリウム | ||
硫酸ニッケル | ||
スルファミン酸ニッケル | ||
リン化インジウム | ||
第5優先 | Iの優先度が「中」で、かつII~IVのうち2つに該当 | 三酸化二ヒ素 |
五酸化二ヒ素 | ||
二塩化コバルト | ||
硫酸コバルト | ||
第6優先 | Iの優先度が「低」で、かつII~IVのうち2つに該当 | コバルト金属 |
ノニルフェノール |
2.Oeko-Institutによる優先順位付け
Oeko-Institutによる優先順位付けは、次の3つの基準で行われ、6段階に優先順位付けしています。
優先順位 | 優先順位付けの根拠 | 物質名 |
---|---|---|
第1優先 | 電気電子製品中の使用量が多い | ポリ塩化ビニル |
第2優先 | 電気電子製品中の使用量が中程度である | 中鎖塩素化パラフィン |
三酸化アンチモン | ||
テトラブロモビスフェノールA | ||
第3優先 | 電気電子製品中の使用量が少ない | リン化インジウム |
ベリリウム金属および合金 | ||
酸化ベリリウム | ||
第4優先 | REACH規則附属書XIVに収載された認可対象物質のため、EU域内での使用されなくなることが推定される | 三酸化二ヒ素 |
五酸化二ヒ素 | ||
りん酸トリス(2-クロロエチル) | ||
REACH規則附属書XVIIに収載された制限対象物質である | ノニルフェノール | |
第5優先 | 中間体として利用され、最終製品への含有可能性が小さい | 硫酸ニッケル |
スルファミン酸ニッケル | ||
二塩化コバルト | ||
硫酸コバルト | ||
第6優先 | 電気電子製品中の使用量が少ない ※使用量は特定できなかったが、少ないもとの推定される |
コバルト金属 |
EU域内での使用されなくなることが推定される ※使用されていないと推定される |
フタル酸ジエチル | |
2,3-ジブロモ-1-プロパノール | ||
ジブロモネオペンチルグリコール |
3.両プロジェクトにおける課題
このように両報告書では、優先順位付けの基準が異なるため、一方では第1優先としている物質が、他方では第6優先になる等大きな差異があります。
また、両報告書では、RoHS指令第6条による見直し評価範囲が不明確であること、電気電子製品の含有物質情報や廃電気電子製品の廃棄処理に関する情報が限定的であること、物質の有害性と暴露情報に基づいた物質のリスク評価を既に実施しているREACH規則との整合、電気電子製品に不可欠なインジウム等のレアメタルの扱い、リサイクル容易性、代替物質の利用可能性など、制限対象物質の見直し方法についての課題も多く指摘されています。
2014年7月22日が期限となっている1回目の制限対象物質の見直しでは、すでにREACH規則認可対象物質であり、2015年に日没日を迎える臭素系難燃剤のHBCDDとDHEPなど4種のフタル酸エステルの5物質が検討の遡上に挙げられています。
2回目以降は定期的に見直しを行う旨しか明確になっておらず、具体的な手続きや更新頻度などは上記の2つのプロジェクトの結果をもとに、今後、さらに検討が行われるものと推測されます。
7月22日までに策定される改訂案はもとより、今後の定期改訂時にあわてないためには、見直し手続きについてもある程度の理解が必要であると考えます。
(井上 晋一)