ここが知りたいRoHS指令

ここが知りたいRoHS指令

電子・電気部品に関する欧州の環境規制(RoHS指令)について紹介

2017.01.20

他業界に学ぶ化学物質管理

電気電子業界では、RoHS(II)指令やREACH規則などが求める製品含有化学物質管理に苦慮しています。特に、海外法規制がリスクベースでの管理を求めていますので、どこまで対応すべきかを悩んでいるのが実情のようです。
 順法のためのデューデリジェンス(Diligence)が求められていますが、基準値がありませんので、担当者の悩みは深いものがあります。
 電気電子業界以外でも、製品への化学物質を含めて異物の混入防止には苦慮し、様々な管理手法を開発しています。これらの電気電子業界で参考となる先行モデルについてご紹介します。

1.食品業界:HACCP(ハセップ/ハサップ)

食品業界の管理手法として、HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)があります。HACCPは、食品の製造・加工工程のあらゆる段階で発生するおそれのある微生物汚染等による危害をあらかじめ分析(Hazard Analysis:HA)し、その結果に基づいて、製造工程の各作業で対策を検討し、重要管理点(Critical Control Point:CCP)を定め、これを連続的に監視することにより製品の安全を確保する衛生管理の手法です。
 HACCPの基本ルールは7原則にまとめられています。

原則1:危害分析(HA)
 原材料、製造工程の各作業で起こり得る危害を予測し、どのような方法でこの危害を除去あるは管理するかの具体的対策を考えます。
原則2:重要管理点(CCP)の設定
 HAにより発生の可能性が高く、結果が重大な要因を特定し、重要管理点として、特別管理をします。CCPを製造工程のどこに設定するかを判断するのが重要になります。CCP以外は一般管理をします。
原則3:管理基準(CL)の設定
 CCPのCLを定めます。CLは数値化が望ましく、科学的、客観的な根拠も必要です。
原則4:モニタリング方法の設定
 管理基準に基づいての監視の方法と頻度などを設定します。
原則5:改善措置の設定
 管理状態から逸脱した状態から正常な状態に戻すための手順、不適合品の措置を予め設定しておきます。
原則6:検証方法の設定
 HACCP手順が適切に機能しているかを確認します。問題があれば見直しをします。
 当初想定していなかった例外処置などを盛り込みます。
原則7:記録の維持管理
 記録の保管責任者、保管期間、保管場所を明確にしておきます。記録はトレサビリティの要点です。

7原則の運用を12手順にまとめています。
手順1:プランの作成及び衛生管理実施を担うHACCP専門家チームの編成
手順2:原材料および最終製品の確認
手順3:製品の使用方法(いつ、誰が、どこでどのように食べるのか)の確認
手順4:製品工程一覧図および製造施設内の見取り図の作成
手順5:製造工程一覧図、施設内見取り図の現場での確認、衛生標準作業手順(SSOP)による一般的衛生管理プログラム作業の確認
手順6~手順12は、原則1~7になります。
 HACCPは成書も多く、厚生労働省1)2)や都道府県などでのガイドも多くでています。電気電子業界では、食品業界ほど厳格な対応は要求されないものの、対応手順は参考になります。

2.食品包装・食器業界:PIM

食品に接触するプラスチックに関してEUでは、プラスチック製食品接触材料及び製品に関する規則3)(Regulation 10/2011 plastic materials and articles intended to come into contact with food 通称:PIM)があります。
 PIMについては、前にコラムでご紹介していますので、ご参照ください。
 PIMでは「非意図的添加物質 NIAS(non-intentionally added substance)」の管理が大きな課題です。NIASの非含有管理を含めた管理事項が、適合宣言(DoC)の項目としてまとめてられています。
 なお、PIMではDoCは"Declaration of compliance"で、RoHS(II)指令等のニューアプローチ指令では"Declaration of Conformity"です。PIMではDoCの説明資料は"Supporting Documents SD"で、ニューアプローチ指令の技術文書(Technical Documentation TD)との違いもあります。
 PIMのDoCの項目から順法適合宣言するうえでの実施すべき事項が見えてきます。PIMの第15条の要求情報は次です。

  • (1)コンプライアンス宣言を発行する事業者の身元と住所。
  • (2)製造の途中段階からプラスチック材料または製品または製品を製造または輸入する事業者の身元および住所、またはそれらの材料および製品の製造を意図した物質
  • (3)材料、物品、製造の中間段階からの製品またはそれらの材料および物品の製造を意図した物質の同一性
  • (4)宣言の日付
  • (5)プラスチック材料または製品、製造中間段階の製品またはその物質が本規則および規則(Regulation)1935/2004(食品に接触する素材および製品に関する規則)に規定されている関連要件を満たしていることの確認
  • (6)川下の事業者がこれらの規制への遵守を確保できるように、附属書IおよびIIに定められている規制および/または仕様に関する使用または分解生成物質に関連する適切な情報
  • (7)食物に制限を受ける物質に関連する適切な情報であって、実験データまたはそれらの特定の移行量に関する理論的計算によって得られたものであり、適切な場合には指令2008/60/EC、95/45/ECおよび2008/84/ECを使用して、これらの材料または物品の使用者が関連するEU条項を遵守することができるようにする。
  • (8)材料や物品の使用に関する次のような仕様
    • (i)接触させようとする食物のタイプまたは種類
    • (ii)食物と接触している処理および貯蔵の時間および温度
    • (iii)材料または物品のコンプライアンスを確立するために使用される体積に対する食品接触表面積の比
  • (9)機能性バリアが多層材料または成形品に使用される場合、材料または物品が第13条(2)、(3)及び(4)又は第14条(2)及び(3)の要件に準拠していることの確認

(5)項は原材料管理、(6)がサプライヤーへの情報提供、(7)が移行量の可能性、(8)が製品の使用方法、(9)が順法基準となっています。
 食品接触材料ですので電気電子機器とは異なった特殊な要求もありますが、参考になります。

3.適正製造規範(GMP)

RoHS(II)指令第7条(e)項で「製造者は、適合を維持するために、量産品に関する手順が整っていることを確実にすること」を要求しています。
 「量産品の手順」はISO9001品質マネジメントシステムに統合するとしても、順法システムとしての要件が気になります。食品同様あるいはそれ以上に厳しい医薬品業界では、GMP(Good Manufacturing Practice)4)で管理をしています。
 GMPの概念は、医薬品の品質を保証するために、原材料の受入から製造、外注、包装、試験、出荷までの全工程にわたる管理の基準を示したものです。Manufacturingには品質管理や試験など、製品を製造する際に係わるサプライチェーンを含めて全ての要素を含めたものです。
 日本では医薬品のGMPは「医薬品及び 医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準」5)として、法規制になっています。
 医薬品GMPでは、管理事項が明記されています。

第7条(製品標準書)
 製造業者等は、製品(中間製品を除く。以下この条において同じ。)ごとに、次に掲げる事項について記載した製品標準書を当該製品の製造に係る製造所ごとに作成し、保管するとともに、品質部門の承認を受けるものとしなければならない。

  • 製造手順 以下略

第8条(手順書等)
 製造業者等は、製造所ごとに、構造設備の衛生管理、職員の衛生管理その他必要な事項について記載した衛生管理基準書を作成し、これを保管しなければならない。
 手順書として、「製造所からの出荷の管理に関する手順」「バリデーションに関する手順」などが特定されています。
 その他、設備管理や製造管理もあります。
 EUの法規制であるPIMもGMP6)を要求していますが、記述内容が異なります。
 PIM GMPは「出発物質の生産までを除くが、すべての部門および材料および物品の製造、加工および分配のすべての段階に適用」されます。
 主要な要求は次です。

第5条(品質保証システム)

  • (1)事業者は、効果的かつ文書化された品質保証システムを確立し、遵守し実施を確実にしなければならない。
    • (a)完成した材料および物品が適用される規則に従うことを確実にするために必要な人員、その知識および技術の妥当性、施設および設備の整備を考慮する。
    • (b)事業者に過大な負担とならないように、事業者の事業規模を考慮して適用すること。
  • (2)出発材料は、その材料または物品に適用される規則に従うことを確実にする事前設定された仕様に基づいて選択され、適合しなければならない。
  • (3)異なる操作は、事前に確立された指示および手順に従って実施されなければならない

第6条(品質管理システム)

  • (1)事業者は、効果的な品質管理体制を確立し、維持しなければならない。
  • (2)品質管理システムには、GMPの実施と達成のモニタリングと、GMP達成の失敗を是正するための措置の特定が含まれなければならない。そのような是正措置は、遅滞なく実施され、検査のために管轄当局に利用可能にされなければならない。

第7条(ドキュメンテーション)

  • (1)事業者は、完成した材料または物品のコンプライアンスおよび安全性に関連する仕様、製造方法および処理に関して、紙または電子形式で適切な文書を作成し、維持しなければならない。
  • (2)事業者は、完成した材料または物品のコンプライアンスおよび安全性に関連して実施された様々な製造作業と、品質管理システムの結果に関する記録に関して、紙または電子形式で適切な文書を作成し、維持しなければならない。
  • (3)文書は、要求に応じて、事業者が管轄当局に提供しなければならない。

EUのGMPの記述内容は目的事項しかないのですが、医薬品GMPの項目を取捨選択するやり方で具体化できると思います。

4.電気電子業界・企業対応

リスクアセスメント、リスクベース管理など、順法管理の具体化は悩ましいところです。
 全国中小企業団体中央会の「中小企業のための製品含有化学物質管理実践マニュアル」7)やJAMPの「製品含有化学物質管理ガイドライン第3.0版」8)などで、順法管理対応が解説されています。
 当然のことですが、マニュアルやガイドは、多様な企業に当てはまるように、一般化して記述されています。この一般化されている狙いや本質は、分かり難いのですが、他業界の取組みを見ると気づきが得られることがあります。岡目八目です。
 日本企業は安全を追求しやり過ぎが多いと言われます。PIM GMPの前文では、「GMPに関する規則は、中小企業にとって過度の負担を避けるために比例して適用されるべきである。」としています。
 UKでは"Due diligence defence guidance notes"9)で、企業の順法活動の説明をしています。

  • 相当な注意を払ってあらゆる適正措置をとる。当然実施すべき活動を遂行する
  • ポジティブな活動が不可欠
  • 各ステップで適切なチェックをする
  • 合理的な注意と適切な注意は企業規模や量によるシステム
  • 危険を特定し、適切な管理と安全措置をとり、活動を記録しレビューする
  • リスクアセスメント、危険分析、および品質保証を行う

RoHS(II)指令、REACH規則対応は、自社が考え、身の丈にあった仕組みで、やるべきことを絞って、行うことが求められています。このやるべきことを検討するときに、他業界の取組みが参考になります。

(松浦 徹也)

1)http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/haccp/
2)http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000076152.pdf
3)http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=CONSLEG:2011R0010:20111230:EN:PDF
4)http://www.tokyo-eiken.go.jp/assets/pharma/hinshitu/gmp_2.html
5)http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H16/H16F19001000179.html
6)http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32006R2023
7)http://www2.chuokai.or.jp/hotinfo/chemical-manual20140205.html
8)http://www.jamp-info.com/wordpress/wp-content/themes/jamp/kanri_information/tmp/JAMP-MG001-2013-1_130424_Management-Guidelines_v300JP.pdf
9)http://www.hillingdon.gov.uk/media/24556/Due-diligence-defence/pdf/Due_diligence_defence_guidance_notes.pdf

当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。 法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家に判断によるなど最終的な判断は読者の責任で行ってください。

情報提供:一般法人 東京都中小企業診断士協会

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