電子・電気部品に関する欧州の環境規制(RoHS指令)について紹介
RoHS(II)指令では「試験または測定されるか、もしくは整合規格に則り、評価された材料、構成部品および電気・電子機器については、本指令の要求に適合するものとみなす」(16条2項)とされています。すなわち、サプライチェーン上流で分析試験や整合規格に則り適合性評価がされていれば、これらの材料、構成部品については、制限物質の非含有要求に適合しているとみなされことになりますので、電気・電子機器の製造者は分析試験を行う必要はないことになります。
RoHS(II)指令の整合規格EN50581(有害物質制限に関する電気・電子製品のための技術文書:2012)では、サプライヤーから収集する情報として、以下の3つの文書を挙げています。
一般的には、入手する情報レベルは、「制限物質が材料、部品、組立部品に含有される可能性」や「サプライヤーの管理状況や信頼性」を踏まえたリスク評価を行い、その評価結果に基づいて、サプライヤーから入手する情報の種類や量を製造者が決定することになります。部品や材料の含有性のリスクが低ければ宣言書や契約書でよいと考え、制限物質が許容濃度を超える含有リスクが高いと判断されれば、分析試験の提出を求める必要があります。
ご質問のプリント基板(ベアボード)に使用する材料、部品、補助材料にフタル酸エステルが含有する可能性があるかは、あらゆる技術的知見で判断することが求められます。例えば、プリント基板については使用される材料から判断が可能と考えます。
プリント基板は、主にフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミドが使用され、表面にはソルダーレジストが塗布されています。
RoHS(II)指令が制限するフタル酸エステル類(DEHP、BBP、DBP、DIBP)を使用する可能性は低く、プリント基板の素材(銅張積層板)メーカーの多くはRoHS(II)指令適合表明をしています。
ソルダーレジストも上記フタル酸エステル類の使用する可能性は低いとされています。
署名付き「フタル酸エステル不使用証明」は上記文書の(1)、(2)に該当すると思われ、プリント基板の製造者が信頼できるのであれば、適合証明となります。
ただし、フタル酸エステルには移行性の問題があり、従来の制限物質以上に非意図的含有の懸念が提起されていました。
フタル酸エステル類はポリ塩化ビニルの可塑剤に利用されることが多いのため、移行する可能性はポリ塩化ビニルが高いとされます。
2018年5月11日のコラム「フタル酸エステル類移行量測定中間報告」で、フタル酸エステル類有識者会議の各種樹脂での移行の調査結果を解説しています。
その後のエステルの移行性に関する調査試験結果が、東京都立産業技術研究センターの「TIRI Newsに」公表されています1)。
調査試験結果によりますと、フタル酸エステル(DEHP)を約30%含有する塩ビマットにフタル酸エステルフリーの市販の消しゴムを85日間接触させて、移行量をラマン分光法(簡易測定法)で測定した結果、有意な移行量の確認できなかったとしています。
ただ、ラマン分光法による検出限界は1%程度のため検出できなかったのですが、フタル酸エステル類の公定法のIEC62321-8では、0.1%以上の濃度で検出されたとの情報もあります。
移行は非意図的含有ですので、移行量は測定して適合保証することは現実的ではありません。
移行を起こさないような作業管理を自社内およびサプライヤーで実施することになります。仕組みで順法保証をすることが現実的な対応となります。
また、樹脂類はリサイクルされますので、フタル酸エステル類の混入リスクがあります。この場合の混入リスクへの対応も、サプライチェーン管理の一つとして仕組みで順法保証をすることになります。
フタル酸エステル移行に関しては、下記のコラムに数回にわたり詳細にレポートされていますので参照ください。「フタル酸エステル類の規制関連のFAQ」(2018.03.23)、「フタル酸エステル類の混入について」(2018.07.06 2)、「CAS(Compliance Assurance System)の手順と基準の設定について」(2018.08.03)
参考資料
1)TIRINews 2018年8月号